【ジブリ考察記事】は、ジブリ好きでなおかつ社会科の教員免許を持つ私が、ジブリ作品を社会科の教師目線で考察していくシリーズ記事です。今回は、1995年公開の『耳をすませば』を考察していきます。
※この記事は、2018年12月の公開した記事をリライトしたものです。
『耳をすませば』は、漫画家柊あおいさんが、1989年から少女漫画雑誌「りぼん」に掲載していた漫画が原作になっているジブリ作品です。1995年、宮崎駿監督によって映画化されました。
私は、耳をすませばの"あるシーン"が気になって仕方ないのです。そのシーンを社会科的に考察したいと思います。
<目次>
物語の概要
主人公の月島雫(つきしましずく)は、読書が好きな中学3年生。たぶん帰宅部です。
ある日、父親の勤める図書館で借りた本の貸出カードに、「天沢聖司(あまさわせいじ)」の名前があることに気付く。どの本の貸出カードにもその名前が記入されていたのです。その人物が一体どんな人なのか想像を膨らませる雫。
そして、実は天沢聖司は同じ中学校の同級生だということを雫は知ります。最初は、聖司の生意気な態度に「やなヤツ!やなヤツ!」と反発しますが、次第に惹かれあっていきました。中学生なんてチョロイですわ(´・ω・`)
そして何やかんやあって、聖司くんは中学校3年生のくせに雫に向かって「結婚してくれないか‼︎」って言っちゃう…そんな物語です。
気になる"あるシーン"
雫と聖司が出会った後、聖司は雫に対してこう言っています。
「俺、貸出カードで前から雫のことに気付いてたんだ」
「図書館で何度もすれ違ったの、知らないだろ?」
「隣の席に座った事もあるんだぜ…」
「俺、お前より先に貸出カードに名前を書くため、たくさん本を読んだんだからな…」
詳しくはYahoo!で「天沢聖司 ストーカー」と検索してみてください。
出典:映画『耳をすませば』より
聖司は、雫が読みそうな本を前もって借り、貸出カードに自分の名前を記入することで自分の存在を雫に気付かせる方法を取ったのです。
なんて聖司くんは純愛の持ち主なんでしょう…(๑・̑◡・̑๑)
でも、これは聖司君だから許される行為であって、普通のおっさんがやると即twitter上にアップされて炎上します。
ただ、このシーンで1つ気になることがあります…。"図書館の貸し出しカードって個人情報ダダ漏れじゃない?"ってことに‥
図書館の貸出カードを知らない令和生まれの方に‥
おそらく、貸出カードを実際に使ったことのある世代は、アラサーくらいまでじゃないかと思います(ってか、貸出カードがいまだにamazonで販売されてたんだけど‥。どこに需要があるんだよ)。
本の裏表紙に小さな袋があり、その中に貸出カードが入っています。本を借りる時、その貸出カードに名前を書いてカウンターへ持っていくと本が借りれます。
本を返す時に、貸出カードに係員から印鑑をもらいます。貸出カードは本の裏表紙の袋に戻されます。
出典:https://yamadastationery.jp/
このやり方だと「いつ」「だれが」「どんな本を読んだか」、図書カードを見れば分かってしまうのです。
例えば、自分が『完全自殺マニュアル』なんて本を3週間連続で借りていたら、こころの相談室の電話番号を教えられたとか、ヒトラーの『我が闘争』を4週間連続で借りてたら人種差別者扱いされたりとか…
この欠点を逆手にとって聖司は、雫に対しストーカー行為に走るわけです。
しかし、この図書カードシステムは現在の個人情報保護の観点から見るとどうなんでしょうか?
法律では?
2003年に公布された「個人情報保護法案」では、個人情報の取り扱いについて以下のように言及されています。
"第20条 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。"
個人情報を管理する団体・企業に対し個人情報保護に関するルールを定めています。この法律は2017年に改正されていますが、
"第19条 個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。"
とあります。
まとめると、個人情報保護法では「個人データの漏洩に気をつけなさい」なおかつ「不必要になった個人情報は消去しなさい」と定めています。
確かに『耳をすませば』公開当時(1995年)は、個人情報保護法案は公布されていなかったのですが(2003年公布)、図書カードは「個人読書データ」を「いつまでも」公開しているヤバイ代物だったわけです。
図書館側の見解
実はこの「耳をすませば貸出カード事件」に対しては、図書館さんサイドが激おこぷんぷん丸だったようです。
というのも、日本図書館協会が作成した「図書館員の倫理綱領(1980年総会決議)」では、読者の個人データの保護について、次のように述べています。
‥‥‥‥‥‥
第3項 図書館員は利用者の秘密を漏らさない。
図書館員は、国民の読書の自由を保障するために、資料や施設の提供を通じて知りえた利用者の個人名や資料名等をさまざまな圧力や干渉に屈して明かしたり、または不注意に漏らすなど、利用者のプライバシーを侵す行為をしてはならない。このことは、図書館活動に従事するすべての人びとに課せられた責務である。
‥‥‥‥‥‥
『耳をすませば』公開よりずっと前から、日本図書館協会は読書の秘密を守ります宣言を出していたんですね。
そして、1980年代から読者の個人情報を守るため図書カード方式からバーコード方式に切り替えを続けていたわけです。
そこに、『耳をすませば』という恐ろしい純愛映画が公開され、"図書カード出会い戦法"なる前時代的なやり方が多くの人の目に留まったのです。
日本図書館協会さんは、スタジオジブリに対し『映画みたいな個人情報ダダ漏れなやり方はもうやってないもん! 』と抗議します。
今現在では、図書カード方式はほぼ無くなり、代わりにバーコード式になりました。アラサーの私の記憶が正しければ、中学校までは図書カード方式、高校からはバーコード方式になったように思います。
ジブリさん側の擁護をするとしたら、映画中で雫のお父さんが次のように発言しています。
『うちの図書館ももうじきバーコード式を導入するんだ‥』
このセリフを聞いた雫は、『つまんない』と言っていたように思います。つまり、あと少し遅ければ、聖司と雫は出会ってなかった可能性があったのですね
終わりに‥
今現在では、聖司のやった図書カード出会い戦法は使えません。図書カード出会い戦法が使えない今、聖司はどうやって雫の気を引かせるのか気になるところです‥(´・ω・`)
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