【保存版】シリーズは、筆者であるツベルクリンが色々なジャンルの有益かつ無益な情報を書いていくシリーズ記事です。今回のテーマは「なぜアメリカとイランが敵対しているのか分からない人のための記事」です。
最近、アメリカとイランに関するニュースが飛び交っています。
「アメリカに平手打ち!」イランがミサイル攻撃 日本への影響は?そして今後の展開は - FNN.jpプライムオンライン
ソレイマニ司令官殺害と米イラン関係の行方:朝日新聞GLOBE+
アメリカとイランはここ40年以上仲が悪いのですが、2019年末より2020年にかけて、緊迫した状況になっています。しかし、『そもそもどうしてアメリカとイランは敵対いるの?』という問いに答えられる人は、それほど多くないのではないでしょうか?
今回は、元中学校社会科教師の私が、中学生にも分かるようにアメリカとイランの敵対の原因を解説していきます。
<目次>
- まずはイランの国の位置を確認
- 元々アメリカとイランは仲良しだった
- 革命により両者は敵対関係に
- オバマ大統領時代の「イラン核合意」
- 一方的に合意を"離脱"したトランプ大統領
- アメリカによるイラン軍司令官スレイマニ氏の殺害
- 間違ってウクライナ民間機を撃墜しちゃったイラン政府
- アメリカとイランは戦争に突入するのか?
- 終わりに‥
まずはイランの国の位置を確認
「イラン」は、いわゆる中東エリアに属する国です。中東の国々は、石油の産出量が多いのが特徴です。
話は早いですが、仮にアメリカとイランが全面戦争に突入したら、と仮定します。現状、中東エリアの国で確実に"アメリカの味方"をする国は、サウジアラビアとイスラエルと考えられます(上地図の赤枠)。両国は歴史的に見て非常に親アメリカな国なのです。
なので、アメリカ(サウジアラビア&イスラエル)VSイランの戦争になったら、この中東エリアはヤバいことになる、のは想像に難しくないですね。
元々アメリカとイランは仲良しだった
今でこそお互いに憎しみ合っているアメリカとイランですが、昔は両国は親密な仲でした。
イランという国は、1970年代まで王様が治める国でした。
出典:モハンマド・レザー・パフラヴィー - Wikipedia
1970年代のイランを治めていたパフラヴィー2世は、徹底した「アメリカ仲良し政策」を実施しました。アメリカからの経済的な支援をもらい、国内の近代化を推し進めたのです。
出典:モハンマド・レザー・パフラヴィー - Wikipedia
左端がイランのパフラヴィー2世、真ん中が当時のアメリカ大統領ニクソンです。今では考えられませんが、イランとアメリカのトップが会談を行うくらい親密な関係だったのです。
出典:http://www.all-nationz.com/
70年代のイランの若者です。今では考えられないほどアメリカナイズされています。
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革命により両者は敵対関係に
ところが『さすがにアメリカナイズされすぎだろ』『アメリカにゴマすりしすぎやねん』という声が民衆から上がりだします。やがて、その声は民衆の反国王デモに発展していきました。
その反国王運動を指導したのが、イスラム教法学者のホメイニー氏です(上の写真)。彼は、イスラム教の力で革命を成し遂げようとました。
そして、後に「イラン革命」と呼ばれるこの反国王運動は成功し、国王制は廃止。1979年にイスラム国家「イラン・イスラーム共和国」が成立。イランという国が、
こんな風にイスラム教チックな国になったのは、イラン革命以降です。
新しいイラン政府は、反アメリカ色を前面に出していたので、次第にアメリカとの関係が悪化。さらに、一部のデモ隊がイランの首都テヘランにあった"敵国"アメリカの大使館に乱入し、1年以上に渡って大使館職員を監禁。
この事件により、イランとアメリカの関係は断絶。以後、アメリカはイランを「反米国家」と名指しで批判し続けているのです。
オバマ大統領時代の「イラン核合意」
出典:https://www.madameriri.com/
イラン革命以降、イランとアメリカは互いに敵視し合う関係になったのですが、2002年にイランに核兵器開発疑惑が浮上します。
そもそも、なぜイランや北朝鮮などが核開発を進めるのかと言うと、核兵器を持つことで発言力が強まるからです。一旦核兵器を持たれると、他の国は核兵器を使用されることを恐れて、その国に対し強く口出しできなくなります。
イランとしては、国際的に(特にアメリカに対し)発言力を強めようと核兵器開発に手を出したとされています。『核兵器持たれたらヤバい。核兵器を持つ前に軍事力でイランをやっつけよう!』と考えたのが、ブッシュ元アメリカ大統領であり、トランプ現アメリカ大統領です。
軍事力に手を出す前に、まずは経済的にイランを苦しめようと欧米諸国はイランに対し経済制裁を実施します。その内容をごくごく簡単にまとめると、
1.イランの主力輸出品である石油をイランから買わない
2.イランの石油を買った国に対し、『お前、イランから石油買ったらしいな( `ー´)』と圧力をかける
『核開発を辞めないと、イランの石油を買ってあげないぞ』ということです。
軍事力をちらつかせたブッシュ、トランプ両者に対し、あくまで話し合いで解決しようとしたのがオバマ前大統領です。
2015年、当時イランに経済制裁していたアメリカ及びイギリス、中国、ロシア、フランス、ドイツと、イランは「イラン核合意」を結びました。
イランは、核兵器を製造できる機械を大幅に削減することを約束し、それを確認でき次第、イランに対する経済制裁を緩めますよ、という約束事です。
2015年に合意が成立、2016年にはイラン側が核開発を減らしたことが認められて、経済制裁は解除されました。これは、国際社会へ呼びかけたオバマ大統領の功績と言っていいでしょう。
一方的に合意を"離脱"したトランプ大統領
ところが、2017年にアメリカ大統領に就任したトランプ大統領は、せっかく決まったイラン核合意から離脱し、アメリカ単独でイランへの経済制裁を再開しました。『イラン核合意は生ぬるいわ!』と考えたようです。
なぜイラン核合意は生ぬるいのか、トランプ大統領の主張はこうです
〇核合意には期限(15年間)がある。無期限の核開発削減でなければいけない
〇核開発だけでなく、弾道ミサイルも削減せよ!
言っておきますが、別にイランが核合意の内容を破ったわけでないのです。ちゃんと合意の内容を守っていて、その状況でアメリカは約束事を一方的に破って来たのです。
なぜ、トランプ大統領がここまでイランに対し強硬策に出るのか、理由の1つとされるのが、2020年11月に行われるアメリカ大統領選挙において自身が再選するための"アピール"のためということです。
『アメリカ国民のみなさん、私は悪国イランに対してこれだけ強い姿勢でのぞんでいますよ~!』ってアピールしたいのです。つまりは、個人的な理由なのです。
このように、勝手に合意から離脱したアメリカに対し他の合意に参加した国々は『えぇ‥(´・ω・`)』とドン引きしているのが、正直なところでしょう。そして、イラン側にしてみても『ちょっと何言ってるのか分かんない』と不満を表すのは当然です。
アメリカによるイラン軍司令官スレイマニ氏の殺害
2020年の正月、アメリカがイランの司令官、スレイマニ司令官を殺害したと発表しました。殺害方法は、ドローンから誘導ミサイルを発射し司令官に命中させるという非常に現代チックな方法です。
スレイマニ司令官は、イランの特殊部隊「コッズ部隊」の司令官でした。アメリカは、このコッズ部隊を"テロ組織"と指定していました。
2019年の秋以降、イランは隣国のイラクにあるアメリカ軍基地(イラン国内にはアメリカ軍基地は無い)に、ミサイルを撃ち込む嫌がらせをやるようになりました。この嫌がらせを指導していたのが、スレイマニ司令官とされています。
スレイマニ司令官はこれまでにも、アメリカ軍ならびにその関係者を攻撃させ、多大な損害を与えていました。なので、イラン国内では彼は"アメリカに立ち向かった英雄"と尊敬されているらしいのです(最も、イラン国民全員が彼を英雄と思っているわけでも無いらしい‥)。
数回に渡って基地を攻撃されたアメリカ側は、『スレイマニ司令官を生かしておくと、やっかいだわ』と考え、2020年1月3日、彼を殺害したのです。トランプ大統領は声明を出し、『戦争を始めるためではない、止めるためだ』と司令官の殺害を肯定します。
1月6日、イランにおいてスレイマニ司令官の葬儀が行われました。そして、イランのトップであるハメネイ大統領は、『アメリカに仕返ししますわ!』宣言を出します。イランの"英雄"が殺されたわけですから、まあ当然の姿勢と思われます。
その宣言通り、1月4日に隣国イラクのアメリカ大使館(イラン国内にはアメリカ大使館は無い)をミサイル攻撃、1月8日には、同じく隣国イラクのアメリカ軍基地へミサイル攻撃をします。
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間違ってウクライナ民間機を撃墜しちゃったイラン政府
ところが、この後イランはとんでもないミスをしてしまいます。1月8日、イランは自国の首都テヘラン空港を飛び立ったウクライナの民間航空機を、アメリカ軍機と間違えて、撃墜してしまいました。
当初は、事故とも考えられていましたが11日、イラン政府は軍隊が"間違って"撃墜してしまったことを認めました。その上で、『でも、このミスはアメリカ側がイランに圧力をかけてきたから起こったミスだ!』と"言い訳"をしました。
もちろん、大前提として撃墜された飛行機に乗っていた搭乗客からすればたまったもんじゃありません。その上で、このイラン側のミスはイランの国際的立場を悪くする結果になりそうです。
というのも、これまでの風潮として、一方的に核合意から離脱したアメリカを批判する声並びにイランへ同調する声が国際的にあったのですが、この事件により今後、各国のイランへのイメージが悪くなると考えられるからです。
撃墜されたウクライナ民間機に搭乗していた搭乗客を国別にカウントした表です。イランを飛び立った飛行機ですから、当然イラン人も多く搭乗していました。つまり、イランは自国民も多数殺してしまったことになります。
それまで、現イラン政権を支持していたイランの人々がこの飛行機撃墜事件を機に、逆に現イラン政府への反発を強める結果にもなりそうです。
アメリカとイランは戦争に突入するのか?
以上、アメリカとイランの関係について見てきました。ここまで来ると『じゃあ、アメリカとイランは全面戦争に突入してしまうのか?』という疑問というか不安が出てきます。
それに対する私の答えは、『戦争になる可能性は0、もしくは限りなく0に近い』です。戦争にはならないでしょう。なぜなら、戦争をする"メリット"が両国に無いからです。
まず、イラン側の視点です。仮に、イランとアメリカが戦争になった場合、どう考えたってイランは勝てません。アメリカの圧勝でしょう。それはイラン側もよく分かっています。勝てない戦争を起こす国などありません。
スレイマニ司令官が殺害された後、前述したようにイランはアメリカ軍基地にミサイルを撃ち込みました。その際に、イランの最高指導者ハメネイ大統領は『アメリカに平手打ちしてやった』と声明を出しました。
あくまで、「平手打ち」なのです。「グーでパンチ」ではありません。イランとしても、司令官が殺害されたのですから、アメリカに対し仕返ししなければ国民は納得しません。でも、戦争を始める気は0だから、平手打ち程度の仕返しなのです。
では、アメリカ側から見るとどうでしょう?イランに戦争を仕掛ければ、アメリカは勝てるでしょう。でも、アメリカ側から戦争を仕掛ける可能性も、ほぼ0です。なぜなら、戦争をすれば金がかかるからです。
トランプ大統領がイランへ対して強い姿勢で接しているのは、大統領選挙へのアピールのためです。アメリカ国民に対し『私は悪国イランに対して、強い姿勢でのぞんでいますよ!』とアピールできさえすればいいのです。下手に戦争を起こして、お金を使いまくっちゃうと、支持者が離れてしまいます。
つまり、イラン側もアメリカ側も自国民へアピールするために、お互いに"平手打ちし合う"程度の現状が実は丁度いいのです。
終わりに‥
巷では、『第三次世界大戦の勃発か!?』と煽った記事やニュースも見かけますが、冷静に国際情勢を観察すれば、その可能性はほぼ0だと言えます。もちろん、今後とも両国の動向を見守っていく必要があるでしょうけどね。
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