【時には昔の雑誌を‥】シリーズは、筆者である私所有の昔の雑誌を、解説を入れながら読んで行くシリーズ記事です。今回は、1932年(昭和7年)1月に講談社が発行した『新時代婦人心得 知らねば恥大画帖』をご紹介していきます。
その中でも今回は"こんな親は馬鹿だ"と言いたくなるような、非常識だったり救いようがない親の例をひたすら挙げていく『当世親馬鹿集』をご紹介していきましょう。
<目次>
漫画『贈答縮尻』
親馬鹿集をご紹介する前に、同じ雑誌に掲載されていた『贈答縮尻』を読んでいきましょう。縮尻=しくじり、です。作者は田川水泡。あの『のらくろ』で知られる漫画家です。
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戦前の漫画としてはおそらくトップクラスに有名な『のらくろ』。連載開始が1931年、この雑誌が1932年発行ですから、ご紹介する『贈答縮尻』は、田川水泡が一番売れている時期に書かれた漫画、だということになります。
『田中さんへ御進物しなければならないのだが何がいいかしら?』
『やっぱりお菓子が良いわね』
『進物だからのしを付けて下さい。大急ぎですよ』
『どうも結構な物を』
『いいえ、つまらない物で‥』
『チェッ、1円か。正札(値札)が付いてやがら』
『元山の所へやるのに丁度いいや。このあいだの礼手紙をつけてやろう』
…当時の1円は現在の2000〜3000円くらいです。
『2つ3つ食べても分かりゃしないわよ』
『これはほんのつまらないもので‥どうぞご主人によろしく』
『ちょうど渡辺さんに何かあげなけりゃならなかった所だからこれをそっくり‥』
『おや、すみませんね。こんなご心配をかけて』
『おやおや、手紙が入っていた。さては他所からの貰い物だな‥』
『ほんのお印ですよ』
『宅では虚礼廃止ですから、せっかくですけどお返しいたします』
『せっかくの贈り物を返すなんて気持ちが悪い。もう何にもやるものか!』
『まあ、ようこそ。ちょっとお門を通りましたから‥』
『ご丁寧に恐れ入りました。』
『いいえ、お粗末な品でございます』
『あらら、中身が減ってるわ』
『どうしましょう』
『食いかけは気持ちが悪いな‥』
『いつも果物を送って来るから田舎の伯父に送ってやろう』
五日も汽車にゆられて‥やっと着いたが日が経って中身は腐ってカビだらけ
お歳暮とかお中元などの贈答品を使い回すネタって『サザエさん』でよく見た記憶があります。贈答品を他所に回したい大人たち VS 贈答品の中身を食べたいカツオ、みたいな構図で。
って思ったら、『サザエさん』の作者、長谷川町子の師匠が田川水泡だったわ。師匠譲りのネタ、っていうことだったのね(*'ω'*)
当世親馬鹿集
さて、ここからが本題。1932年当時の価値観で、「こんな親は馬鹿だ」と批判されてしまうような親とは、どんな親だったのでしょうか。見ていきましょう。
①子供の喧嘩に飛び出す親、こういう親に限って我が子だけが善良で悪いのは他人の子だと決めている。親馬鹿の好見本
②我が子の悪いのを棚に上げて先生の悪口を言う親馬鹿、子供は得意になるが性質と成績はいよいよ不良になる
‥現代で言うところのモンスターペアレントってとこでしょうか。モンペって戦前にもいたんですよね。
③『何だと、馬鹿ッ!』と子供の前で罵り合う夫婦喧嘩。親を敬えと教えながら、親を軽蔑することを実地に教える親馬鹿
④お客が見えると決まって子供をそばに置いて自慢する親がある。ここに子供の心情から美しい謙虚の芽をむしり取る親馬鹿あり
⑤子供のいるところで召使いなどを叱りつけると、子供までがそれを真似て威張り散らすのです。暴慢な子供を養成する親馬鹿
‥前回の記事からずっと指摘していますが、この雑誌は富裕層向けに書かれています。じゃないと「召使い」とか単語、出てこないでしょ(*'ω'*)
⑥『嘘を言ってはいけませんよ』と、日ごろやかましく我が子に教えながら、ご自分は平気で噓を言っている親馬鹿
⑦子供だから構うまいと平気で子供との約束を破る親がある。ところが、子供は親から教えられたこの悪習慣を相手を選ばず応用する
‥「約束」って書かれた紙を破る親の表情がいい。セリフは無いけど『残念でしたぁ~』って声が聞こえてくるもん(*'ω'*)
⑧『ほら、オバケが出ますよ』『早く寝ないとお巡りさんに叱られますよ』と、我が子に無用な恐怖心を抱かせ、一向に平気でいる親馬鹿
‥挿絵のオバケが昭和っぽくていい
⑨子供をむやみに飾り立て自慢する親馬鹿、こんな親に限って他人へは不義理をし放題、子供の心に虚栄の種を蒔いて喜ぶ浅はか者
⑩『子供だから仕方がないさ』と、他人の迷惑などは少しも構わず子供をワガママいっぱいにさせる親馬鹿
‥これも現代にもいますよね、公共の施設とか乗り物で子供が騒いでいるのに放置プレイしている親。『子供だから仕方がない』ってセリフを言っていいのは周囲の人たちであり、保護者側じゃないんですけどね(*'ω'*)
⑪我が子可愛さから学校の宿題を代わってやってやる親がある。子供は喜ぶが、頭は反対に後戻り。
⑫不相応な学用品などを与えて喜んでいる親がある。子供の心に贅沢の種を蒔きつける親馬鹿
⑬子供を二言目には馬鹿呼ばわりする親がある。その挙句、子供は自分は馬鹿だと思い込んで平気でいるようになって、ロクな人間には育たない
⑭よくも知らないことを、いい加減にごまかして子供に教える親がある。そのために子供は思わぬ時に赤っ恥をかいて段々親を信用しなくなる
‥欄外で「タイヘイヨウハイクキロアルノ?」「1500キロだよ」と適当に答えていますが、正しくは9000キロ(東京~ロサンゼルス間)くらいです。
⑮子供が何か質問すると、面倒くさがって『うるさいッ!』と怒鳴り散らす親がある。そのくせ、子供の成績が悪いと『低能』と叱りつける
⑯朝のお掃除の邪魔になるというので『もう少し寝ておいで』と無理に朝寝坊の癖をつける親馬鹿
⑰同じ我が子なのに可愛がり方に区別をつけて偏頗(へんぱ:不公平な対応をすること)にする親がある。僻見(へきけん:偏見のこと)の種子を子供に植え付ける親馬鹿
⑱自分たちの興味から子供にどんな影響を与えるかも考えずに芝居や活動(活動写真の略。今で言う映画の事)に連れていく親馬鹿
‥これは現代の価値観では分かりにくいですが、戦前は芝居や映画は教育上よくないものとみなされていました。映画や芝居自体が悪いものと思われていたのもありますが、映画館や芝居小屋に不良が集まりがちという点が懸念されたようです。
話は変わりますが、戦前は小説を読むとバカになるって思われていた時代ですからね。子供が「将来小説家になりたい」とか親に言っちゃうと、たぶんぶん殴られてたと思います(*'ω'*)
⑲あまり厳格すぎると子供は叱られるのが恐ろしさに隠し立てをしたり嘘を言うようになる。厳格過ぎることは一面、子供を不良に育てるおそれがある。
⑳子供の不健康や悪癖をつくることに一向に気が付かず、平気で子供に無駄遣いさせる親馬鹿。
終わりに…
ブログを始めた当初は、独身でなおかつバリバリの添乗員だったので、日本各地の観光地を紹介する【ツベルクリンwalker】シリーズを軸に記事を書いていたんですが、今は子持ちになっちゃったので、いかんせんフットワークが重たくなってしまいました。
まぁ、今さら「子連れでも安心!子供も楽しめる観光スポット10選!」みたいな記事を書いたって当ブログのアウトローでファンキーな読者層には1つもカスりはしないんですよね(^ν^)
でも、この昔の雑誌シリーズは、出かける必要も無いので、小さい子がいても書きやすい記事なんですよね。
ってわけで、もしかすると今後は微妙にブログ全体がモダンというか大正昭和レトロ感に包まれる割合が増えるかもしれませんけども、とりあえずよろしくお願いします(๑・̑◡・̑๑)
『新時代婦人心得』の過去記事はこちらから