
当ブログのシリーズの中で個人的に好きなシリーズが【時には昔の雑誌を…】です。私が趣味で集めている古雑誌や古本を紹介していくシリーズです。
『じゃあてめえが持ってる古本の中で一番古いヤツは何だよ?(*'ω'*)』と疑問に思う方が2~3人いらっしゃると思うので回答すると、『旅行用心集』です。

『旅行用心集』とは、1810年(文化7年)に八隅蘆庵(やすみろあん)という旅好きな人物が記した書物です。日本初のガイドブックと言われており、旅のアドバイスが書かれています。今回ご紹介するのは、レプリカではなく江戸時代当時に製本された原本になります。
現代でこそ頻繁に旅行に出かけられる時代になりましたが、江戸時代においては多くの庶民にとって旅行とは一生に一度行けるかどうかのビックイベントであったことでしょう。一生に一回しか行けない、ということは旅行に関する知識がほぼ0、ということでもあります。
そんな旅行初心者に対して、旅行中の様々なアドバイスを記したのが当書籍です。アドバイスの中には根拠が不透明なものもありますけども、多くの教えが現代の価値観にもあてはまるものであり、読む価値は十分にあると言えます。
この記事では、『旅行用心集』のアドバイスの中からいくつかピックアップし、解説を加えながらその内容をご紹介していきたいと思います。
<目次>
前文

さて、旅に出る人は次のことを心得てほしい。 たとえ家来を連れて行くとしても、股引や草履を履くなどのことは自分ですること。 食事に不満があっても文句を言わずに食べること。 すべて自分の修行の機会だと思うこと。土地によっては習慣の違いなどから気にくわない扱いを受けることがあっても、心得ておくこと。旅行中は、風雨にあう、濃霧に山越えをする、布団が薄い、仲間割れが起きる、怪我人が出て行程が遅れる、気候の変化で持病が出るなど、思わぬトラブルに見舞われるものである。旅先では家に居るときのように適切に対処することがむずかしいものである。
(中略)
筆者である私は、若いころから旅行を好んでいたので、旅行へ出る友人知人からアドバイスを求められた折には、都度旅における諸注意をしたため持たせていた。ただ近年は歳を取り、筆を手にするのもだんだん億劫になってしまい、なかなか指南することもできなくなってしまった。
そこで、これまでいろんな人にアドバイスしてきた内容をまとめ、本にすることにした。これを「旅行用心集」と名づけ、これから旅行をしようとする皆様の助けにしたいと思っている。
<解説>
江戸時代は一般的に庶民が旅行すること(自分の住んでいる藩を越えて遠出すること)は認められていませんでした。ただ例外的に「湯治のため」「寺社仏閣への祈願のため」などの場合は旅行が認められていました。その場合は、村の役人に申請し通行手形を発行してもらいます。
江戸時代の旅行は基本的には全行程徒歩であり、その分期間が長くなり費用もかさみます。そのため、旅行に行きたい人たちで集まって「講」というグループを作りました。その中でお金を出し合って毎年選ばれたメンバーがグループで積み立てたお金を使って旅行に出発をしていました。グループに属していればいつかは自分の番が巡って来る、というシステムです。
基本的には毎年数人ずつが選ばれていたようです。同じグループのメンバーですから顔見知り同士だとは思いますが、2泊程度なら問題ないとしても1か月に渡って道中を共にしていれば絶対いつかは揉めますよね(*'ω'*)
目次ページ


街道沿いの宿場町一覧、みたいなページ

旅の道中における注意

太字は本文の現代語訳です。その後に解説を加えています。
旅の出発の日は、足のコンディションを万全にし、草鞋の履き心地などをしっかりと試すこと。初めの二、三日間は、休憩を多めにして足を痛めないように注意しよう。旅の初めはどうしても気分が上がって休みなく歩き続けてしまいがちである。そこで足を痛めてしまうと、旅の間じゅう、その痛みに苦労することになる。旅の始めは、足を大事にすることを心がけよう。
旅行に必要なものは、普段の外出で持ち歩く物のほかは、極力最小限になるようにした方がいい。あまり多く持ち歩くと、紛失などしてかえって面倒なことになりかねない。
<解説>
現代でも旅行の時めっちゃ荷物持ってくる人いるじゃないですか。旅行に行く機会がめったにない江戸時代ならなおさら大荷物持って出てきそうではあります。
道で女性などとすれちがったとき、軽く挨拶くらいは良いが、それ以上の余計な話をしたり、または相手の方言を笑ったりしてはいけない。トラブルは、些細なことから起こるものである。
<解説>
この時代もナンパみたいなことってありますよね~。ちなみに、江戸時代においても女性が旅行に出かけることは決して珍しいことでは無く、今で言う"女子旅"も相当数存在したとされています。
夏の旅ではのどが渇きやすくなるが、水を飲むときは場所をよく選ぶように。古池や山水であっても、水が流れていない溜まり水は飲んではいけない。菌が入っているかもせしれない。水を飲むときは、五苓散などの薬を常備して一緒に飲むとよい。
<解説>
五苓散は今でも売ってますよ。ただ、水の消毒に効果があるのかは謎です(*'ω'*)
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人足(荷物を運搬してくれる人)や馬に荷物を運ばせたい場合は、出発の二、三日前には出すようにしましょう。直前では途中で荷物に追いついてしまう可能性があります。
<解説>
現代でも宅急便で荷物を先にホテルへ送っちゃう場合もありますよね。その段取りが悪いとホテルに着いても「荷物が届いてない!」みたいなことになっちゃうよ、って戒めです(*'ω'*)
川渡しについての注意


知らない川は決して歩いて渡ってはいけない。また、橋が流れて歩いたり船で渡ったりしなければならない時は、宿場の役人に相談するのがよい。
<解説>
江戸時代は主要な大きな川には橋が架けられていませんでした。万が一、幕府に対し反乱を起こした大名家が出た場合に、その軍勢を足止めさせるためです。
よって川を渡るためには、川渡しを利用する必要がありました。川渡しはプロの集団であり、多少お金がかかりましたが安全に渡ることが出来ました。
一方で、正規の川渡し業者とは別に、地元の農民が小遣い稼ぎのために勝手に川渡し業務をしていたところもあります。現代で言うところの"白タクシー"みたいなものです。確かに正規業者よりは価格が安かったようですが、プロではないのでよく事故が発生していました。

速いからといって船を使うのは考え物だ。大事な用事や急ぐ時は陸地を通るべきである。急がぬ旅なら船に乗り足を休めるのも良い。風にあってうまくいくこともある。しかし異変があったときに「後悔先に立たず」となることは心得ておくべきだ。
<解説>
大名が1年おきに江戸と領地を往復した制度が「参勤交代」です。この参勤交代って大名行列を組んで徒歩で行くイメージってあるじゃないですか。『歩くのダルくね?飛行機は無いから仕方ないとして、船で行けばいいじゃん(*'ω'*)』って思ったことはありませんか?
実は「江戸に直接船を着けなければ船移動はOK」だったんですよね。そりゃ四国や九州の大名は船使わないと本州に渡れませんからね。
なので、特に江戸初期は特に西国の大名が瀬戸内海を移動した記録が残っています。ただ、「悪天候だと進めず足止めを喰らう」「万が一殿様が乗った船が沈没などしたら取り返しがつかない」等の理由で徐々に陸路のみの移動に変化していきました。
このように、江戸時代における船移動は"楽だけど事故のリスクが高いし悪天候になったら時間が読めない"と考えられており、じゃあ歩いた方が早いね!って判断になるのです。
大きい籠に衣類や紙などを入れる場合は、直接ではなく油紙で二重に包み防水対策を施しておくこと。川越しで中に水が入ってしまうおそれがある。大きい籠に限らず両掛 (肩掛け鞄) などへも水が入らないよう注意が必要である。
<解説>
昭和の頃は油紙ってどの家庭にもあった気がするんですけど(私は平成生まれだから分かんないです)、油紙は今でも売ってますよ。
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川越し、舟渡しの場所では、身に着けているものを落とさないようにきちんと留めておくこと。駕籠に乗っている場合でも吊っていたものを落とすことがある。とくに水の中に物を落とした時は、まず拾えないと覚悟しておかなければならない。
<解説>
現代だったらスマホとか落としそう(*'ω'*)
乗り物に関する注意

駕籠に酔う人は、駕籠の戸を開けて乗ること。
<解説>
現在でも車酔いする人は車の窓開けて気分を入れ替えますしね。街道沿いには民間の駕籠業者が存在し、1里(約4キロ)で1万円前後の相場だったようです。
大勢で船に乗らないこと。船の中のことはすべて船頭にまかせ、逆らってはいけない。船の中のことには決まりがあって忌み嫌うこともある。船頭の邪魔にならないようにするのがよい。
<解説>
ここでも船のリスクについて言及されています。船は危ない乗り物なのだから、少しでもリスクを下げるために船頭さんの言う事はちゃんと聞きましょう、ってことですね。
乗り物酔いには、強い酢を一口飲んだり、梅干しを口に入れているのもよい。生の大根のしぼり汁を飲むのもよい。
<解説>
大根は乗り物酔いに効くとのこと
【小笠原】片道24時間!「おがさわら丸」の船酔い対策徹底ガイド
旅館でのふるまいについて

<解説>
江戸時代、街道沿いには旅人の休憩や宿泊ための休憩&宿泊の拠点として宿場町が整備されました。おおむね10㎞ごとに設置されました。旅人は1日に約40㎞ほど歩いたので、基本的には朝出発したら4つ先の宿場町を目指す、といったペースで移動していました。
庶民が利用する宿泊施設は「旅籠(はたご)」と「木賃宿(きちんやど)」の2種類がありました。旅籠は食事つき、木賃宿は食事なし、という違いです。木賃宿では、薪代を払って旅人自ら自炊していました。旅籠は1泊5000円前後、木賃宿は1000円前後であったとされています。

もちろん、客引きもいます。ルールとか無いので強引に旅人を引っ張ってます(*'ω'*)
宿へ着いたら、まず東西南北の方角を聞いて確かめ、次に家の構造や便所、表裏の出入口を確認するのが昔からの教えである。火事や強盗、けんかがあったりしたときのためである。
<解説>
現代でも宿泊施設にチェックインしたら非常口を確かめましょうね
長雨の後は山が崩れ落ちるということがある。山際の大きな岩の下にある宿屋や、川岸の宿屋には泊まらないこと。
<解説>
これも現代に通用しますね。まあ、今はそんな危険な場所に旅館はあまり無さそうですけど、テントを張る時に避けるべき場所ではありますね。
払いは各人がそれぞれが出すようにすること。持ち合わせがなくその場で出してもらった場合は、その日のうちに清算すること。長い道中では金銭の貸し借りは、わからなくなってしまうためである。
<解説>
もう解説するまでもなく、現代でも通用する話ではあります。
旅の中で馬や駕籠、人足(荷物を運搬してくれる人)などが必要な場合は、出発前日の夜までに宿へ手配を依頼しておくこと。朝になってからでは間に合わないことがある。領収書が必要な場合も、到着したときに宿に依頼しておく。(中略)準備万端にしておかないと、人馬の用意にも手間取り、無駄な時間が生じることになる。旅においては、お金の管理と同様、時間もしっかり管理することが大切である。
<解説>
現代だったら事前にweb予約など出来るものはやっておいた方が無難ですしね。ってか本当に現代にも通用することばかり書いてやがるぜ(*'ω'*)
朝はバタバタしがちなので、忘れ物を防ぐためにも前日のうちにしっかりと確認し、使うものと使わないものを分けて風呂敷に包んで片づけておく。朝はもう足袋さえ履けばよいくらいにしておけば万全である。朝の遅れは1日の遅れにつながるのだ。
<解説>
江戸時代は街灯とかないので、旅行は日の出とともに出発し日の入り前に宿に入るのが基本でした。朝暗いうちから準備するとかダルいので前の日からの準備が大切ですね。
温泉について

書籍の中で各地の温泉について紹介してあります。兵庫県の有馬温泉を1ページ目に持ってきていて挿絵も挟んでいることから、作者のお気に入りの温泉だったのかもしれません。

風呂は宿の案内の順に入ることになるが、混雑時は順番を間違えて、もめやすい。そんな時は身分の高い人を先に入れておくこと。風呂の順番でけんかになりやすいので、何事も控え目が身のためにもなることが多い。
<解説>
現代で言うところの大浴場のような大きな風呂場は当時ほとんど無かったので、イメージとしては民宿のお風呂といった感じでしょうか。数十人が泊まっていれば待たされることもあったでしょうね。
湯に入る回数は7回くらいまでは入ってよい。ただし、年齢や体調をよく考えること。特に疲れたときには、熱い湯に長時間入れば疲れはとれる。温泉が自分の病気に合っているかどうかは、入ったあと腹が減るかどうかで判断すること。湯治中慎むべきことは暴飲暴食、みだらな行為、冷たい物のとりすぎなどである。湯上がりに体を冷やすのも良くない。
<解説>
7回は入り過ぎでしょ(*'ω'*)。あと"熱い湯に長時間入れば疲れは取れる"っていうのも間違ってますよね。ぬるま湯の方が身体への負担が少ないです。
空腹で風呂へ入ることは避けるようにしよう。食後であっても、落ち着くまでしばらくは控えた方がいい。とはいっても宿の客が多いと風呂の順番などがあり、空腹のまま入らなければならないこともある。そういう場合は、まず足の先に湯を何度かかけ、それから湯船に浸かるようにするとよい。長湯は避けたほうがよい。空腹だとのぼせることがあるので注意が必要である。
<解説>
今も旅館の部屋に入るとお茶とお菓子が置いてあったりしますよね。お菓子を食べて落ち着いてから温泉へ行くようにしましょうね。
持ち物について

腰の刀は軽くて短いのに限る。長い刀や脇差、派手なもの、奇抜な着物や持ち物は身につけないほうがよい。目立たない恰好をしていれば、災難にはあわない。
旅行には矢立、扇子、糸、懐中鏡、日記帳、櫛、鬢付油(ただし、かみそりは宿屋で借りて使うこと)、提灯、ろうそく、火打道具、懐中付け木、麻綱、鉤などを用意すること。
<解説>
文章と共に挿絵が書いてあり、分かりやすくまとめられています。現代だったら現地のコンビニとかで買えばいいですけど、当時は自販機すら無い時代だからですね~。
終わりに…

↑ 注意しておくべき虫が書いてあるページ
200年以上までに書かれた書物ですけど、旅行の際に注意が必要なポイントって江戸時代も現代もそこまで大きく変わらないんですよね。ぜひ、皆様もご旅行に行かれる際にはこの『旅行用心集』を役立てていただければ幸いです(*'ω'*)
現代訳の全文はこちらの書籍にて