日常にツベルクリン注射を‥

現役の添乗員、そしてなおかつ社会科の教員免許を所持している自分が、旅行ネタおよび旅行中に使える(もしくは使えない)社会科ネタをお届けするブログです♪

【スポンサーリンク】

【ルーマニア革命】チャウシェスク大統領夫妻の裁判記録まとめ

スポンサーリンク

スポンサーリンク

 

当ブログは2018年のクリスマスあたりに開設しましたので今年で7周年を迎えることが出来ました。当ブログが7周年っていうのと全然関係無いんですが、今から36年前のクリスマスに、東欧の社会主義国家であったルーマニアで革命が起こりました。

 

 

出典:ルーマニア - Wikipedia

 

緑色で塗りつぶしているのがルーマニアです。その上(北)で国境を接しているのがウクライナです。

 

1989年(平成元年)、ソビエト連邦の傀儡(かいらい)国家であった東欧諸国で社会主義政権が次々に倒されていきました。80年代以降、ソ連の国力が低下し、東欧への影響力が弱まったことで、民主化運動が広まりドミノ倒しのように社会主義政権が倒れていきました(=東欧革命 - Wikipedia)。ベルリンの壁が崩壊したのも1989年の話です。

 

その中でルーマニアの革命はかなりアウトローな革命でした。というのも、革命によって捕らえられた独裁者に対する糾弾裁判だけではなく、処刑までもが映像に残され、全世界に向けて発信されたことです。

 

この記事では、ルーマニア革命で実施された独裁者夫婦への裁判の問答のほぼ全て文字に起こしてみました。

 

 

<目次>

 

 

 

 

ルーマニア革命の概要

 

出典:ニコラエ・チャウシェスク - Wikipedia

 

1960年代からルーマニアの実権を握っていたのは、ニコラエ・チャウシェスク大統領でした。彼の政策の特徴としてソビエト連邦と距離を取りアメリカや西ヨーロッパ諸国と関係を築く外交を展開したことです。この姿勢のおかげで西側諸国からは好感をもたれました。このような外交姿勢が取れた要因としては、ルーマニアは農業国かつ石油が採れたので、ソ連の援助が無くともある程度は自立出来たからです。

 

その一方で、外貨を獲得するために国内の資源を輸出しまくり国民への供給を後回しにする内政を実施しました。輸出で得た資金は自らの権力を維持するために使用され、国民への還元はほとんど成されず、80年代にはルーマニア国内で深刻な品不足&資源不足が起こりました。

 

 

出典:エレナ・チャウシェスク - Wikipedia

 

また妻であるエレナ・チャウシェスクも政権に参加し、No.2としてその権力を振るいました。どちらかと言うと、夫のニコラエより妻のエレナの方が評判が悪いという評価さえあります。

 

1989年12月15日、ルーマニア西部の都市、ティミショアラにおいてチャウシェスク政権を批判する牧師を町から追放する決定を出しました。これに反発したティミショアラの市民が反政府デモを展開していたところ、治安部隊がデモ隊を弾圧しにかかりました。

 

出典:ニコラエ・チャウシェスク - Wikipedia

 

↑ ティミショアラでの抗議運動の様子。

 

出典:ニコラエ・チャウシェスク - Wikipedia

 

 

チャウシェスク政権は戦車までも投入し、ティミショアラでの反政府運動を抑えようとしましたが、その影響はテレビなど通じてルーマニア全土へと拡大していきました。

 

 

運動の拡大を危惧したチャウシェスクは12月21日、政権は健在であることを示すために首都ブカレストで「チャウシェスクを称える集会」を開催します。その様子はテレビ中継されました。

 


www.youtube.com

 

チャウシェスク自身は『まだ首都では自分を支持する者が多いだろう』と考えていたのですが、演説を罵倒する民衆の声が大きくなり演説を中断せざるを得なくなりました。チャウシェスクに忠誠を誓う秘密警察は、デモ隊に向けて発砲したとされています。

 

翌12月22日、チャウシェスクは軍隊に対し首都で反政府デモを行っているデモ隊を鎮圧するように命令します。ところが、国防大臣であったヴァスィーレ・ミレア将軍(裁判中に名前出てきます)は、国民への発砲命令を拒否、逆に軍隊がデモ隊に加わる熱い展開になりました。

 

同日、反政府グループは救国戦線評議会(救国戦線評議会 - Wikipedia)という臨時政府を作り、イオン・イリエスク(イオン・イリエスク - Wikipedia)が代表に就任しました(革命後にチャウシェスク政権に代わってルーマニアを統治しました)

 

 

軍隊に率いられたデモ隊は、チャウシェスク夫妻がいる共産党本部を包囲、夫妻はヘリコプターで脱出しますが、その模様がテレビ中継されるというお粗末さ(๑・̑◡・̑๑)。

 

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

↑ チャウシェスク夫妻がヘリコプターで脱出した後、共産党本部を占領した民衆

 

 

その後結局、反政府側に身柄を拘束された大統領夫妻は、トゥルゴヴィシュテという街にある軍隊の兵舎に身柄を移されました。そして、その兵舎にて行われた即席の軍事裁判において夫妻両人とも死刑判決を受けて、判決直後に銃殺されました。

 

 

チャウシェスク夫妻が死んだということを確実に伝えるためなのか、軍事裁判並びに銃殺の様子は映像に残されています。裁判の時間はわずか1時間20分足らず、控訴の機会も与えられずに即処刑されました。反政府側が大統領夫妻の身柄を秘密警察に奪還されるのを防ぐために裁判を急いだものと考えられます。

 

 

 

チャウシェスク夫妻の裁判全問答

 

 

 

チャウシェスク夫妻が拘束されてから3日後の12月25日午後1時20分、軍の宿舎にて夫妻に対する軍事裁判が始まりました。今からその全問答を文字起こししていきますが、

 

大統領→とにかく裁判自体を認めたくない

エレナ夫人→ヒステリック状態になってる

裁判長→中立な立場でないといけないのに完全に大統領を罵倒しちゃってる

大統領の弁護人→お前は弁護しろ(*'ω'*)

 

といった様相で、確かにチャウシェスク夫妻が独裁状態で国家権力を握っていたのは事実だとしても、ちょっとやり過ぎじゃね?感も抱かざるを得ません。裁判の場所だってちゃんとした裁判所じゃなくて小学校の教室みたいなところですし…。

 

 

裁判自体は1時間20分ほどで終わりました。その全問答を文字起こししてみました。適宜私が注釈を入れていきます。なお、ニコラエ・チャウシェスクは救国戦線が成立した時点で大統領職を剥奪されているという認識なので、以下この記事では「前大統領」と表記しています。

 

 

 

 

裁判長『これは国民の法廷である』

前大統領『大国民議会外の法廷は認めない』

裁判長『大国民議会はすでに廃止されたのだ。新しく別の権力機関が出来ているのです』

前大統領『これはクーデターだ』

 

 

 

 

裁判長『私たちはこの裁判を「救国戦線」が採択した新しい法律に従って行います。被告(前大統領と婦人のこと)はどうぞ起立してください』

前大統領『国の憲法を読め!』

裁判長『私たちは読んでいます。あなたに指示される筋合いは無い。憲法を尊重しなかったあなたより私の方がよく知っています』

前大統領『どんな質問にも答えないぞ』

 

<注釈>

大国民議会→日本で言う国会のこと

 

 

 

ここで弁護人が発言を求める

 

 

弁護人『私たちはこの軍法会議法廷の2人の被告の弁護人です。2人と話す許可を頂きたい』

 

f:id:tuberculin:20251225092517j:image

 

弁護人『チャウシェスクさん、ここであなたのとった行動の動機を述べる機会があります。これは合憲の法廷です。大国民議会は国民の意志と力で廃止されたのです。お分かりですか?私たちに弁護して欲しいと思うのならどうか話してください。あなたに対する道徳的な義務を果たしたいのです。』

弁護人『起立してください。あなた方が認めようと認めないとに関わらず。これは最終的な法廷なのです』

前大統領『憲法を読みなさい。そうすれば、大国民議会が選挙の日まで、あらゆる権限を保持していることが分かるであろう。だから、私は大国民議会以外のどんな裁判も認めないのだ。』

弁護人『それでは、弁護さえ望まないのですか?』

前大統領『いらない』

 

 

 

 

裁判長『彼はこの25年間、"国民の最愛の息子"と称しながら、国民との対話を拒否し、国民を嘲笑してきた。そして今も、彼は法廷に協力しようとしない事実は、よく知られている』

裁判長『彼らの記念日はお祭りそのもので、両被告はどこの王様も持っていないほどの財宝と装飾品を集め、祝日を祝っていた。一方、国民にはサラミ200gが与えられるだけだ。しかも身分証明書を出させて。』

裁判長『両被告が行った大量殺人、国民からの収奪、そして国民の名で語る権利があるという高慢。今日も話そうとしない。卑怯者だ。彼女についても彼についても事実は分かっているのだ。』

 

 

 

 

裁判長『検事側、どうぞ訴因を提出してください』

 

検事『裁判長及び法廷各位。本日は、ルーマニア国民に対する重大な犯罪を犯したニコラエ・チャウシェスクと、エレナ・チャウシェスク両被告を裁かねばなりません。両被告は、人間の尊厳と相容れぬ行為を行い、指導者と称しながら、ルーマニア国民を破滅させる方向で決定的に暴君として、犯罪者として行動しました。』

検事『両被告の犯した犯罪に対して、ルーマニア国民、そして無実の犠牲者の名において、裁判長及び法廷各位に対し、以下の犯罪行為により、2人に死刑を求めます。刑法357条1項Ⅽの大量殺人、刑法162条の国家権力破壊、刑法163条の国家の資産破壊による国内攪乱行為、刑法165条国家組織を利用した国内経済の破壊行為。』

 

裁判長『聞こえたかね、ニコラエ・チャウシェスク被告。法廷は起立を求めている。あなたに対する訴因を聞きましたか?』

 

前大統領『大国民議会以外の所では応えない。どんな芝居でもするがよい。私は認めない。』

裁判長『芝居はお前が25年やってきたではないか。お前が我が国を断崖絶壁まで追いやったのだ』

前大統領『この裁判を認めない。すべてが嘘だ。350万戸のアパートが建てられ…』

裁判長『つまり、訴因を認めないという事ですね』

前大統領『そういうことだ。そして、何にも署名しないし、どんな宣言もしない。もう一言も喋らないぞ。何も署名しない』

 

 

 

 

 

 

裁判長『我が国の状況は明白だ。この破壊的な状況は、1989年12月22日まであなたが支配していた国民みんなが知っている。被告であるあなたのせいで病院ですら薬剤が不足し、大人も子供も死んだ。食料も、暖房も、照明も無い。このことを考えたことはないのか?』

エレナ夫人『ばかな…』

裁判長『今はニコラエ・チャウシェスク被告と話しているのだ』

裁判長『ティミシェアラでの大量殺人は誰が命じたのか?』

前大統領『返事はしないぞ』

裁判長『あなたが頑固なのは知っている。これまでの態度を見ていれば十分わかる。では、ティミシェアラの大量殺人の責任者が誰なのか、回答を拒否するのですね。』

前大統領『大国民会議に対してならば答える。しかし、大国のスパイとして働き、クーデターを組織した輩には答えない』

裁判長『私の質問内容に答えてください』

前大統領『いや、何も答えない』

裁判長『誰がブカレストで群衆に発砲命令を出したのか?』

エレナ夫人『群衆?どの群衆のことよ?』

裁判長『知らないのか?ブカレストの状況も?宮殿広場で群衆に発砲が行われた。あなた方はこれに無関係だと言うのか?。今この時にも狂信的な連中が罪の無い人々を、子供や老人までをも射撃し続けている。あの狂信者たちは何者なのだ?養成したのはあなたなのか?誰がそんな金を払ったのだ?』

 

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

↑ 首都ブカレストで撃たれ倒れたデモ隊

 

 

前大統領『どんな質問にも答えない。これを答えともみなさないでくれ。ただ1つ言っておきたいのは、宮殿広場では誰も発砲しなかったということだ。それどころか「発砲するな」という命令が出しているのだ』

裁判長『その命令は誰が出したのか?』

前大統領『この私だ。電話会議を通じて。あなた方が述べたこと全ては嘘、偽り、そして挑発なのだ。』

裁判長『書記官!被告は次のように述べた。"私あるいは私の臣下が宮殿広場で発砲命令を出したことは認めない。発砲したことすらない。私は発砲しないように命じたのだ"この発言を記録してください。』

 

 

 

<注釈>

その後の調査で少なくとも革命のきっかけとなったティミショアラでのデモ隊に対する発砲を指示したのは、チャウシェスク大統領ではなく将軍のヴィクトル・スタンクレスクであったことが判明しています(出典:ロシアのネットニュース→Печать статьи - Газета «ФАКТЫ и комментарии»)。なのでこの点に関して言えば、チャウシェスクは冤罪であると言えます。

 

↑ ティミショアラで逮捕され連行されるデモ隊参加者

 

 

 

 

 

 

 

 

裁判長『いいですか?あなたが大統領に就任して以来、今日までに6万人の命が犠牲になっている。あなたが建設したと誇っている全ての都市は、やせ衰え、獣並みに扱われた国民の汗で建設されたものであり、文化人や知識人はあなたに迫害され、国外へ亡命せざるをえなかった。』

エレナ夫人『何を言うの、とんでもない』

検事『裁判長、被告に答えてもらいたいのです』

検事『今この時間にも国内のいたるところで住民に発砲している外国人傭兵は何者だ?連れてきたのは誰だ?その金を出したのは?』

裁判長『いいでしょう。被告、答えなさい。』

前大統領『また新しい言いがかりだ。私は大国民議会以外ではいかなる質問にも答えないと言っているのだ』

裁判長『書記官、記録しなさい。"テロ行為を実行し今も続行している外国傭兵を雇ったのは誰かという質問に対し、被告は答弁を拒否した"と。』

 

 

<注釈>
裁判長の『今この時間にも国内のいたるところで住民に発砲している外国人傭兵は何者だ?』という質問についてです。チャウシェスク夫妻が身柄を拘束された後も首都では銃撃戦が続いていたんですけど、この"外国人傭兵"の正体って実は今現在もはっきりと分かっていません。一説によると、ソ連の影響下にあった集団ではないか?という声さえ上がっています。

 

"1989年12月にルーマニアで発生した一連の出来事について、ヴィクトル・スタンクレスクによれば、ソ連およびКГБ(ソ連の秘密警察)がほぼ1年前からチャウシェスクを潰すための計画を支援し、アメリカはその陰謀に気付いていた。ブクレシュティとティミショアラで発砲した勢力については、脅威を煽り、民衆の蜂起を加速させる目的で、ソ連のГРУ(ソ連の諜報機関)も参加していた、という"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

つまり、革命を裏で煽ったのはソ連ってことになります。ソ連と距離を取っていたチャウシェスク政権を潰すためにソ連が救国戦線を支援した、という説です。チャウシェスクもその認識はあったようで、裁判中にもたびたび救国戦線を『外国のスパイ』呼ばわりしています。

 

 

 

 

 

 

 

裁判長『夫人はおしゃべりだが、読書をしているところを私は何度も見かけた』

エレナ夫人『そうよ』

裁判長『学者、技師、そしてアカデミー会員の資格で読書していた』

エレナ夫人『その通り』

裁判長『読書していると称していたが、教養が無く、理解できていないようだった。それでも最後にはアカデミー会員になれた。』

エレナ夫人『なんてことを。国中の知識人にお前の言葉を聞かせてやりたいわ。』

裁判長『知識人だって?あなたは自分のことを知識人だと思っているのか?』

エレナ夫人『そうよ。その言い草を同僚に聞かせたいわ。』

 

 

<注釈>

"1989年12月25日にエレナが死亡したのち、「エレナ・チャウシェスク名義で論文を書くよう強要された」と主張する科学者が複数現れ始めた"(出典:エレナ・チャウシェスク - Wikipedia)という話もあるので、恐らくエレナ夫人には科学の知識はほとんど無いんじゃないかと思います(でも自分のことを立派な科学者だと思い込んでいるフシはある)。

 

 

 

 

 

 

裁判長『検事、まだ尋問はありますか?』

検事『被告、当法廷の正当性に対しての非難以外に、質問に答えられない理由はありますか?』

前大統領『どんな質問にも、大国民議会と労働者階級代表の前でのみ答える。いいか、どんな質問にも…』

裁判長『ここで答えなさい!あなた方は答弁を拒否するのか!』

前大統領『労働者階級の前でならどんな質問にも…』

裁判長『書記官、"被告は法廷の尋問に答弁を拒否した"と書きなさい』

前大統領『労働者階級と大国民議会、それ以外は認めない!』

裁判長『それはもう何度も聞いた』

前大統領『全世界の人々にそのことを知らせてやりたいのだ』

検事『あなたのしてきたことは全世界の人々は知っています』

前大統領『私は、クーデターの首謀者に答弁はしない』

裁判長『あなたの言う大国民議会は解散させられたのだ。今日では、国民の手によって別の権力機構が出来ている。それは合法的に作られた"救国戦線評議会"だ』

前大統領『誰も救国戦線など承認していない。だからこそ現在、国民が戦っているではないか!外国と手をつないだ連中によるクーデターが一掃されるまで、国民は戦い続けるだろう』

裁判長『被告は、合法的に作られた救国戦線評議会を認めないと言うが、ではなぜ国民は戦っているのか?あなたに対して戦っているのではないか?』

前大統領『生活と独立のためだ』

検事『何のためだと?』

前大統領『国の存続と独立と主権のため、そしてルーマニア統一のためだ』

裁判長『よろしい、"国家転覆は外国のスパイの助けで行われた"と被告は述べた』

前大統領『何回でも言おう、救国戦線など認めない』

裁判長『まず、今私たちに言いたまえ』

前大統領『いいか、一市民として言うが、いつかお前たちも真実を認めることになるし、お前たちがルーマニアの破滅のために手を貸さないことを私は期待して…』

 

 

ここで裁判長は、チャウシェスクの話を遮る形で弁護人へ質問する

 

 

裁判長『尋問があればどうぞ』

弁護人『法律上の問題を整理し、解決するための時間をください。まず、チャウシェスク被告に自分が大統領を解任されたことを知っているか聞いてください』

裁判長『被告、知っているか?』

弁護人『それからエレナ被告にも。被告本人を含めた政府の構成員が総辞職し、もはや何の権限も持たないことを知っているか尋ねて下さい』

裁判長『被告は聞いたか?自分たちが職務から解かれたことを知っているか?』

前大統領『私はルーマニア大統領だ。大国民議会と国民の前だけで答える。外国の手先の助けでクーデターを起こした連中の代表には答えない』

裁判長『外国の手先に金を払ったのはチャウシェスクの一派だ!』

前大統領『違う!ナンセンスだ』

エレナ夫人『とんでもない、何ということ言うの!』

前大統領『私はルーマニア大統領だ。ルーマニア社会主義国軍の最高司令官だ。だから大国民議会と国民の前だけで答える』

裁判長『書記官、書いてください』

前大統領『違う、絶対違う!』

裁判長『書記官、"私はまだこの国の大統領で最高司令官だ"という被告の言葉を記録してください』

 

 

 

 

 

裁判長『被告よ。なぜ国民をあれほど辱め、無残な状態に置くような政策をとったのか?なぜ農民の労働の産物を輸出したのか?そのため国中の農民がブカレストへパンを買いに来たではないか。なぜこんなことをしたのか?なぜ国民をこんなに飢えさせたのだ?』

前大統領『その質問には答えないぞ。だが、一市民として言おう。集団農場の組合員は家族当たりではなくなんと1人当たりに200キロの小麦を受け取っていたのだ。こんなことは初めてだし、しかもこれ以上受け取る権利もあったのだ。いいか、お前たちの主張は嘘だ。私が言うからよく考えろ。作りごとだ。これでお前たちがいかに愛国心が足りないか、この国でどんな裏切りがあったか、よく分かるというものだ』

裁判長『ではなぜ今その小麦が農民の手元にないのか?なぜブカレストまでパンを買いに来ているのか?』

前大統領『それは真実ではない。ほとんど全ての村にパン工場が作られたのだ。それからもう1つ、私は単なる一市民として話しているのであって、君たちが裁判をしているなどとは認めないことを明らかにしておこう』

裁判長『つまり、素晴らしい計画を持っていた、と。おそらく計画の上では素晴らしかったのだろう。ただ、机上のプランと実行とは別だ。それに、あなたの語った"農村の再開発"だが、それは実際には、ルーマニア農村の破壊を意味したのだ』

前大統領『一市民として言う。かつてこれほど、ルーマニア農村が発展したことは無い。それどころか農村の強化、生活の保証が実現したのだ』

裁判長『"私には破壊の意図は無かった"と…』

前大統領『私は病院を建て、学校を建て、しかも世界のどの国にも無かったほど暮らしに必要なものを全て建設したのだ。これも一市民として言っておく』

 

 

 

 

 

 

裁判長『1つ尋問する。あなたは、「我々はみな平等で、労働に応じた報酬を受け取る」と言った。私がテレビで見たあなたの娘の別荘では、金のはかりで輸入肉を計っていたが、我が国の肉は良くなかったというわけか?』

エレナ夫人『何を言っているの?とんでもない、どこからそんな話を!』

検事『では別荘はどうなんです?』

エレナ夫人『何の別荘?誰もそんなものは持っていやしないし、私の娘は合法的な普通のアパートに住んでいるのよ!別荘?そんなものは持っていやしないわ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

検事『質問がある。ニコラエ・チャウシェスク被告に答えてもらいたい。スイス銀行にある40万ドルの口座は一体何なのか?』

エレナ夫人『どの口座よ、証拠を出しなさい、証拠を!』

前大統領『口座なんて1つもない。誰も持っていない。これで、クーデターを起こした連中がどんな嘘つきで挑発的だったか分かると言うもんだ』

裁判長『お前の娘だけで9万ドル持っていたのだ。市民なら1ドルで牢獄行きだ。被告は、口座を開設したことはないのか。たぶん名義は別にしているのだろうが』

検事『あなたの口座があるのなら、ルーマニア国家のために口座をルーマニア国立銀行に移すことに同意するか?』

前大統領『単なる一市民として言う。これは大国民議会で議論すべき問題だ。ここは法廷とは呼べないからだ。ただ、言いたいことが1つある。私は口座などどこの国にも1ドルたりとも持ったことはないのだ』

 

 

<注釈>

お金持ちはスイス銀行に裏口座を持っている…的な話ってよく聞きますよね。ただ、チャウシェスク夫妻については、本人たちが主張しているように、外国に個人口座は本当に持っていなかったらしい‥と結論付けられています。

 

チャウシェスクは「外国の銀行に秘密口座を開設した」と言われたが、そのような口座は実際には存在しないことが分かった2008年10月14日、ルーマニア議会は、調査委員会による報告書を採択した。国会特別委員会の議長、ジョルジェ・サビン・クタシュは、『銀行家や中央銀行総裁、ジャーナリストに証言を聞いた結果、「ニコラエ・チャウシェスクが外国の銀行に秘密の口座を持ち、お金を不正に移していたことを示す証拠は見付からなかった』と結論付けた"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

ってことは、救国戦線側がチャウシェスク夫妻に対して行った『どうせ外国に隠し口座があって私財を貯め込んでるんだろ!』といった追及は的外れ、ということになります。

 

 

 

 

検事『裁判官、この被告が口座を持っていないと言い張るなら、被告人との議論はおしまいにしましょう』

弁護人『そうです。エレナ被告への尋問を』

前大統領『自分で"検事"と言い張っているお前!あまり私を侮辱すると、お前自身を裁判へ送ってやるぞ』

裁判長『なるほど、あんたの作った"人民裁判所"へな』

前大統領『その通り、彼を労働者の前で裁くべきだ』

 

 

 

裁判長『書記官、被告人ニコラエ・チャウシェスクの供述を読み上げなさい』

書記官『ティミショアラの大量虐殺の実行者について回答を拒否する、宮殿広場前の群衆に対し発砲命令を出したことは認めない、市民を殺害した外国人傭兵を集め金を払った者は誰かという質問に対しては回答を拒否した、新しい国家権力機関を認めない。それらは外国のスパイの助けを借りて非合法に作られたものだ、私は今なお国家の大統領であり最高司令官である、国民を飢餓状況に追い込んだことは認めない、それどころか国民1人当たり小麦200キロを与える政策をとった、ルーマニアの村の破壊ではなく近代化を図った、誰も私の名義で1ドルたりとも振り込んではいない…』

前大統領『私は誰にも1ドルもやっていない。汚い挑発だ』

エレナ夫人『なにもかも当てこすりだわ』

 

 

 

裁判長『被告は申立書に署名するか?』

前大統領『私は申し立てなどしていない。一市民として君らの理解のために説明したのだ』

裁判長『書記官、記録してください。被告は署名を拒否し、法廷そのものの合法性も認めない、と』

前大統領『救国戦線の合法性もだ』

裁判長『救国戦線の存在は知っていたわけだな』

前大統領『いや、後から知らされたのだ』

裁判長『では、法廷が合法的に構成されたという事は…?』

前大統領『いかなる合法的機関も、大国民議会によらなければできないはずだ。クーデターで権力を奪った者が、結局国民に罪を問われるのは、歴史を見れば明白だ』

 

 

 

 

裁判長『エレナさん、女性であるあなたは、もう少し理性的で裁判にも協力的かもしれませんね。ニコラエ・チャウシェスク被告は判断力を失ってしまったようですが、その第一協力者であり、「影の内閣」だったあなたは、ティミショアラの大量殺人を知っていましたか?』

エレナ夫人『いいえ、何が大量殺人よ。何てことを言うの』

裁判長『あなたはこの大量殺人に無関係だったと言えるのですか?。まさか、科学の研究に没頭し過ぎて知らなかったなんて言うつもりじゃ‥』

前大統領『妻の本は外国でも数多く出版されているんだぞ』

裁判長『誰に書いてもらってたんですか?』

エレナ夫人『よくもそんなことが言えるわね、私はアカデミー総裁なのよ!』

弁護人『ニコラエ・チャウシェスク被告、質問は両被告人それぞれに個別に行われます。過去においても大統領でなかった夫人にあなたと同じ理論は通用しないのです。さあ、彼女に話させなさい』

前大統領『彼女はルーマニアの副首相だ』

弁護人『そう信じるなら、その肩書において自分を守れるよう、彼女に話をさせてあげなさい』

前大統領『私の同志である妻エレナも、あくまで一市民として話しているのだ。君たちのために』

エレナ夫人『私たちはどんな裁判も認めないわ』

前大統領『我々は答えないし、責任も負わない』

 

 

<注釈>

wikipediaの記事を引用すると、

 

"1972年7月以降、エレナ・チャウシェスクはルーマニア共産党の党指導部の1人としてさまざまな党職に就くようになる。1972年7月にはルーマニア共産党中央委員会委員、1973年6月にはルーマニア共産党中央委員会政治局員に選出され、夫に次ぐ影響力を持った重要人物となった。エレナは夫とともに党の運営に強く関与するようになり、高位な政治的地位に上り詰めた"

出典:エレナ・チャウシェスク - Wikipedia

 

とあり、エレナ夫人自体も政権で権力を握っていたことは間違いないと言えます。冷戦時代の社会主義国では、権力を握った夫の妻も政権に参加し実権を握る例がいくつかあり、例えば中国の指導者、毛沢東の妻である江青(江青 - Wikipedia)もその1人と言えます。

 

 

 

 

 

裁判長『エレナさん、あなたは副首相として共同決定権を持つはずです。憲法にもそう規定してあります。さて、そこで改めて尋ねますが、ティミショアラで群衆への発砲を命じたのは誰なのですか?』

エレナ夫人『どんな質問にも答えないわ』

前大統領『私が言いたいのは…』

裁判長『お前に対する質問は終わった。書記官、「誰が命令を下したのか答えない」と書いてください』

前大統領『政府は命令を下す権限を持たない。軍は政府の下部機関ではないからだ』

裁判長『ではブカレストで青年を殺害したのは誰か?秘密警察の千社が若者を踏み潰した』

エレナ夫人『秘密警察?それがなぜ私たちと関係が…』

裁判長『彼らはテロリストではないのか?』

検事『テロリストは秘密警察の指揮下にあると言われている。秘密警察は最高司令官であるあなたの指揮下にあるのではないか?』

前大統領『えっ、何だって?』

裁判長『テロリストは秘密警察に属している…エレナ被告はこう申し立てた』

エレナ被告『いえ、それは答えではなく、例えばよ…』

前大統領『そう噂されていたのだ。まず第一に一市民として説明したいが…』

裁判長『いや、この点ではあなたとは議論しない』

 

 

 

 

出典:ヴァシレ・ミリャ - Wikipedia

 

 

裁判長『ミレア将軍(注:ヴァシレ・ミリャのいこと。上写真)はどんな状況で死んだのか?射殺されたのか?また誰の手によって?』

エレナ夫人『それは医師や兵隊に聞きなさいよ、私たちに聞かないで』

前大統領『私も調べよう、なぜ自殺したのか』

検事『一体なぜミレア将軍を免職し、裏切り者と宣言したのだ?』

裁判長『私が聞いた発表では、ミレア将軍が責任を逃れるために処罰を恐れて自殺した…あなたはそう発表しましたね?』

前大統領『説明しよう、裏切り者ミレアは…』

検事『裏切り者とは断定できない!』

前大統領『私はそう確認したのだ。1989年12月のあの日、ミレアは"軍の部隊は任務を遂行せよ"と命令を受けながら、それを実行しなかった。同行した将校たちが報告してきたのだ』

 

 

<注釈>

ここで名前が出てくるミレア将軍(ヴァシレ・ミレア)は、革命当時の国防大臣です。通説によると、チャウシェスク大統領より首都で反政府運動を展開していたデモ隊を弾圧するように指示が出た際、それを拒否したとされています。そのすぐ後、ミレア将軍は遺体で発見され、国防軍が怒り兵士がデモ隊側に付いた要因となった、と言われています。

 

ミレア将軍がなぜ死んだのかについては、2005年にまとねられた報告では自殺と結論付けられていますが、チャウシェスク大統領の指示で暗殺されたのでは?という憶測も根強いです。

 

 

 

 

 

裁判長『あなたはいつも表にいて、そして側近よりも余計に喋った。そしていつも夫人をそばに置いていた。だが、法廷では私たちと協力しよう。教養ある知識人として話をしよう。2人ともアカデミー会員なのだからね。外国での出版の資金はどこから出たのか?ニコラエ被告の著作集を出版するための金は?。そして、"いわゆる"アカデミー会員のエレナ被告の学術的著作についても』

エレナ夫人『"いわゆる"ですって?私たちの称号まで奪うつもり?』

裁判長『外したのは私たちではありませんよ。あなた方が"単なる一市民"と言ったのでは?』

前大統領『君たちは私が輸入した外国の食品ばかり食べていると言うが、私が1日に採るのは1000キロカロリーちょっとなんだ。しかもそのうち肉はたった60g、あとは野菜だけなんだ。いいか私は…』

検事『被告は答弁を拒否している。被告はミレア将軍が命令を守らなかったと述べたが、それはどんな命令か。ミレア将軍は何を守らなかったのか?』

前大統領『それは全て大国民議会で言う。それだけだ』

 

 

 

 

弁護人『エレナ被告に質問が。かつて精神病だったが、あるいは現在精神病か尋ねてください』

エレナ夫人『下劣な挑発だわ』

弁護人『挑発ではありません。あなたの弁護のためです。責任能力が無ければ弁護できます』

エレナ夫人『よくそんなことが言えるわね』

裁判長『被告は国民と対話したためしがなく、長広舌のあとの喝采に慣れている。この法廷でも同じつもりで振舞いましたね。何ひとつ学ばない。誇大妄想狂のようだ』

裁判長『まだ尋問はありますか?』

弁護人『もうありません』

裁判長『証拠物件はありますか?』

弁護人『ありません、しかしもう一度試みましょう』

前大統領『検察も弁護も認めないぞ』

裁判長『書記官は"弁護人との協力を拒否、と記してください』

エレナ夫人『これは法廷じゃないわ』

裁判長『調書に署名しますか?』

エレナ夫人『するもんですか!私は14歳の時から人民のために働き、生活を国民のために犠牲にしてきたのよ。私たちは決して国民を裏切らないわ』

 

 

 

裁判長『あなたの誕生日が夫の誕生日の前後であることは知っていました』

エレナ夫人は1月7日、ニコラエ被告は1月26日が誕生日

エレナ夫人『それがどうだって言うの?』

裁判長『しかし、あなたの生まれた年について一度も知らされたことはありません』

エレナ夫人『ばかばかしい。それが何なの?』

裁判長『あらゆる嘘がここから始まっているのだ。確かに、女性は年齢を隠すのが普通だが、国の辞典にまで載るあなたが生年を隠すなんて馬鹿げている』

 

 

 

裁判長『さて、審議は終わったとみなします。検事、最終論告をしてください』

検事『裁判長殿、ニコラエチャウシェスクとエレナ夫人による残虐行為を考えますと、刑法162条、163条、165条、357条1項において有罪と考えます。よって2人の被告の死刑と全財産の没収を求めます』

 

 

 

裁判長『弁護側、弁論をどうぞ』

弁護人『判事のみなさん、私たちは被告とは反対の立場にあります。さて、被告の主張から生じる法律上の問題を判断する前にまずこのことを申し上げます。弁護士とは、被告が誰であろうと何をしたとしても、全力で弁護にあたるものです。もちろん、その弁護は法の許す範囲でのことです。そして、合法性の精神に基づくのは言うまでもありません。私は被告両人とは絶対に反対の立場にいますがこのことは2人にも理解して頂きたい』

弁護人『救国戦線が結成され、ここに作らられた評議会は政府を解散し、ニコラエ・チャウシェスク大統領を解任する措置を取りました。被告はこの国の全ての市民と同じように法の処分に従わねばなりません。法廷の調書はこの観点から記録して頂きたい』

弁護人『被告両人の告訴及び裁判の手続きは、形式上、全て満たされています。従って被告両人が裁判を認めないというのは間違いであります。さらに、提出された証拠や事実によって、そうした主張が意味の無いことは明らかです。私は両被告を弁護することになりましたが、両名は当初の立場に固執し、「過去または現在精神病だったのか?」という質問にも「挑発だ」と否定しました。もし、2人が精神病なら法で決められた免罪になります。医学的な鑑定が出れば免罪になるのです。もし、2人に責任能力が無いとなれば、ただ無責任に行動をそたのとは大きな違いが出ます。』

弁護人『弁護人の私にとって残念なのは、私たちが自分の気持ちをあざむいてまで助けようとしているこの被告は、無責任な人間として行動し、しかも自分たちのしていることを完全に理解できることです。被告は4つの罪状で法廷に送られてきました。検事の述べた刑法162条、163条、165条、357条第1項です。私はこの4つの罪状に情状を加えることは出来ません。すでに示された証拠を検討すれば、両被告がこの罪状で有罪であると確信します』

弁護人『ただ私たち弁護側のお願いは次の1点だけです。復讐の、報復の性格を帯びる決定を下さないでいただきたいそして、彼等にもまた今後この法廷に出廷するであろう他の者にも、このことだけは理解させたいのです。わが国民は、合法的な裁判手続きを通じて、この両被告の弁護を私たちに強制的にやらせているということです。被告両名は弁護を望んでいない。それでも私たちはやはり弁護をする。なぜなら憲法がそう明示しているからであります。彼女は訳も分からず憲法と言ったが、何が憲法違反か、それこそ彼女が知るべきことだ』

エレナ夫人『とんでもない!』

弁護人『この軍事法廷は合法的で被告も被告としての要件を満たしている。被告は合法的な機関により剥奪された昔の職務上の資格は認められていません。刑法163条の規定する国内攪乱の犯行については、すでに告発状に示され、またこの手元のデータによって私たち弁護人によって次のように確認されたのです。今それを被告にも告げますが、両被告はこれらの犯行遂行に関し有罪であります』

弁護人『刑法165条の国民経済破壊の罪については、捜査当局が短期間に収集したデータにより、やはり両被告は有罪である。最後に最も重大は犯行、刑法357条第1項大量殺人、この犯行は私も両被告によって遂行されたと確信します』

弁護人『ニコラエ、エレナ夫妻の弁護人としてお願いしたいのは、法廷は法に従って判決を下して頂きたい。報復行為ではなく被告は法の規定する通りの罰を受けなければならない。そのことが明らかにされるようにしていただきたい……以上です』

 

 

 

弁護人『この法廷で、ルーマニア国民に対する犯罪、現在のティミショアラとブカレストでの大量殺人や、20年以上に渡る食糧不足、暖房不足、照明不足などの犯罪を認めない者に対して結論を出すのは難しい。しかし最大の犯罪はルーマニア精神を、国民の魂を鎖につないだ罪だ』

弁護人『ティミショアラで犯された忌まわしい犯罪については、被告たちが忌まわしい国内攪乱をしようとした時、治安警察と正規軍を混乱させようとした。治安警察に正規軍の軍服を着せ、正規軍が国民の味方でないよう。国民が正規軍を恨むようにしむけたのだ』

弁護人『さらに孤児院で育てた子供を海外に送り、国民弾圧のための特殊部隊を養成しようとした。しかし、我々健康な大人なら撃たれたとしても覚悟は出来ているが、病気で入院している子供の酸素吸入器の管を切断したり病人に向かって発砲したり、患者用の薬品や輸血用血液を爆破したり、さらにブカレスト市民が何か月も暮らせるほどの小麦を大量に隠匿し、自分の部下である秘密警察を養うために使ったのだ。秘密警察は被告たちを信じて働いてきた国民を敵に回して戦っているのだ。』

弁護人『被告は大威張りで「私は外国の借金を返したぞ」と言っていた。しかし、これは被告が払ったのではない。総仕上げをするために大金を貯め込んでいたのだ。我々から搾り取りアカトラフに最後の賛辞を捧げに行ったのだ。あなたたちは彼と一緒だ。自分の国民を平気で殺す精神の持ち主だ。』

弁護人『あなたは我々の組織を認めると言ったが、その必要はない。大統領よ、我が国では1947年に政権が変わった時、古い権力者は古い法律に訴えたりしなかった。ミハイ国王はあなたよりもずっと自尊心があり国民に理解されていた。もし、外国にあなたが亡命して認められらならその国で命を終えることができたでしょう』

エレナ夫人『私たちはこの国から出ていきませんよ(笑)』

弁護人『その笑いこそあなた方が病気にかかっている証拠だ。裁判長殿、本来告発ではなく弁護であるべきこの弁論でありますが、それを困難にしているのは、彼らの無理解すなわち法廷無視なのです。それでも人道主義であるべきですし、その中で戦いたかったのです。真実への献身こそが目的だったはずです』

弁護人『私は死刑の廃止を求めたい。なぜなら私は過去何度か司法が誤りを犯したことを知っているからです。しかし、今死刑を廃止することは、ルーマニア国民の忍耐の限度を超えることになるでしょう。私たちにとっての最大の苦しみ、最大の罰は被告らが生き続けることです。いつ逮捕され、射殺され精神病院に送られるかも知れない、その恐怖の中で生きていくことでした。彼らは私たちの家族に対しもっとも残酷な措置を取りました。それは、大統領夫人に従順な高官や取り巻き連中が行ったことで、他の指導部は黙認していたのです』

弁護人『裁判長殿、判決の前に、彼らが次々とどれほどの犯罪を犯したか考えてください。ただ1つだけ、減刑の材料があるとすれば、彼らが破滅的な誤りを犯してくれたので、我々は今、自由になれたのです。まず、大衆が彼を嫌っているのを知りながら、集会を開いてくれたこと。常に彼を守ってきたミレア将軍を殺害してくれたこと。労働者への発砲を命じ、それに背いた将軍を殺したのです。そしてもう1つ、青年たちを殺害したこと。罪もない多くの若者に血を流させてよくも"国民"の名が呼べるものだ。

エレナ夫人『何を言っているの、なぜそんなことが言えるのよ』

弁護人『裁判長殿、まさに彼らの誇大妄想のために、今この惨めな状況に陥っているのです。しかし、だからこそ誰もがこの判決の尊厳性を理解し、真実を理解するのです』

 

 

 

 

裁判長『ニコラエ被告、最後に何か言いたい事は?』

前大統領『私は被告ではない、私はルーマニア大統領だ。大国民議会と合法的な代表者の前で答えよう。言う事はこれだけだ、最初から最後まで全てはクーデター連中の嘘だ。国民を裏切り、ルーマニアの独立まで踏みにじった者どもの!』

裁判長『あなたとは文明人らしい合理的、論理的な話し合いは成り立たない』

前大統領『正直な人々は、私を労働者の前で讃えていたことを覚えていたぞ!』

裁判長『これもまた、ルーマニア国民とルーマニア法廷に対する侮辱とみなす。協議のため退廷する』

 

 

 

裁判官たちがここで一旦退廷する

 

 

 

傍聴者『チャウシェスクさん、あなたはなぜ質問に答えようとしないのですか?』

前大統領『私は国の憲法に従って答えるのだ。私が憲法を知らないと誰かが言ったが、あれは私が一語一語書いたものだ』

傍聴者『そうだとしたら憲法のこの条文を知っていますか?もし地位を失ったら…』

前大統領『地位は存在している。大統領職を与えるのは、大国民議会だけなのだ。救国戦線ではなく、"民族裏切り委員会"といったところだ。彼ら反革命集団には、その地位を得ることは出来ないのだ』

傍聴者『あなたは同じことばかり言っています』

前大統領『一市民として議論しよう』

エレナ夫人『私に称号をくれた世界中のアカデミーを侮辱するなんて‥』

弁護人『すでに称号は剥奪されたのです』

エレナ夫人『そんなこと出来るわけないわ』

前大統領『博物館には、アカデミーからの贈り物がたくさん飾ってあるぞ』

エレナ夫人『そう、多くの博物館たちに』

弁護人『博物館"たち"ですって?アカデミー会員はそんな文法的間違いを犯すのですか?』

エレナ夫人『何ですって?聞こえないわ』

前大統領『君も行けば分かるが、博物館には世界中のアカデミーからの贈り物がある。数十か国からの贈り物が展示され、公式リストもちゃんとあるのだ』

エレナ夫人『すべて目録に載っているわ』

前大統領『そう、釘1本までな』

エレナ夫人『私たちが解放のために闘ったのは、金持ちになるためでもないし、指導的ポストを手に入れるためでもない、そうじゃないのよ』

前大統領『我々を殺すつもりなら、こんな回りくどい芝居など必要なかったろうに』

エレナ夫人『私たちは国民を愛していたのよ、今だってそうよ』

傍聴者『どうして逃げたのです。なぜ国民と対話しなかったのです?』

エレナ夫人『どの国民のことよ?』

傍聴人『あの時(12月21日)、宮殿前広場に集まった国民です』

前大統領『私たちは逃げていない。裏切り者がヘリコプターを呼んだのだ』

エレナ夫人『私たちは立ち去りたくなかったのよ、あそこに残りたかったんだわ』

前大統領『ミレアは命令を実行しなかった、裏切ったのだ』

 

 

 

ここで裁判官たちが法廷に戻ってきます。

 

 

裁判長『起立!』

エレナ夫人『いやよ、あなた、いやと言ってよ』

裁判長『法廷は全員一致で被告を次の犯行により有罪とする、すなわち、刑法357条第1項の大量殺人、刑法162条の国家権力破壊、刑法163条の国内攪乱、刑法165条第2項の国民経済破壊、よって両被告を死刑に処し、全財産を没収する。以上、1989年12月25日付けで宣告する』

 

f:id:tuberculin:20251224090650j:image

 

 

 

弁護人『どうか被告と話すことをお許し願いたい』

 

f:id:tuberculin:20251224090528j:image

 

 

前大統領『この裁判は認めない』

弁護人『被告人は裁判を認めず、上訴もしない。判決を最終のものにせざるを得ません』

前大統領『私は認めない。クーデターを起こしたお前らを処刑してやる。ルーマニアは永遠に生き続けるだろう。ルーマニア国民も自由に生活していく。お前ら裏切り者と一緒にではなく』

兵士『部屋の中にいてください。どうかお座りください』

前大統領『裏切り者の中で奴隷となるより、戦いの中で栄光ある死のほうがマシだ』

エレナ夫人『私たちは彼らを支配していたのよ』

前大統領『その通りだ』

エレナ夫人『大失敗してしまったわ、でもこんなことも起きるのよね』

 

 

<注釈>

チャウシェスク被告は終始、『この裁判は認めない』と主張していますが、正直言うとその主張は受け入れる余地があるように思えます。救国戦線側は裁判開始にあたっての手続きを全部すっ飛ばして、両被告をこの場に引きずり出していますからね。

 

また、刑が確定した10分後には2人は銃殺刑に処されていますが、これも当時のルーマニアの法律に思いっきり違反していました。

 

"軍事検察官であったミハイ・ポポヴ(Mihai Popov)によれば、ルーマニアの法律では判決から10日が経過して初めて判決が確定するが、その規定にも違反しており、その10日間のうちに、被告が「上訴しない」と最初に宣言していたとしても、考えを変える権利が被告人にはある"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

10日間の猶予どころか判決の10分後には射殺されてますからね…。

 

 

 

 

 

夫妻は兵士の指示で立ち上がる

 

 

f:id:tuberculin:20251224090716j:image

 

エレナ夫人『共に戦ったんだから一緒に死にましょうよ。殺すのなら私たちを一緒にお殺しなさい』

前大統領『そうだ、一緒にだ』

エレナ夫人『私たちには一緒に行く権利があるのよ』

 

 

ロープを持った兵士が登場。夫妻の両手をロープで縛り始めます。

 

 

エレナ夫人『何をしたいの?』

前大統領『何だこれは!』

エレナ夫人『やめなさい、私を縛らないで!』

前大統領『私には自分の思い通りに立つ権利があるのだ』

エレナ夫人『私を縛ってはいけないわ、やめてよ。子供たちよ、私が心配じゃないの。かわいそうに思わないの。手を折らないで。私は母親としてお前らを育てたのよ、恥ずかしいとは思わないの?誰がお前らに嘘を吹き込んだの?』

兵士『いいえ、誰も』

エレナ夫人『ねえ、誰がお前らに嘘を吹き込んだの?権力者である私たちになぜ聞かないの?』

 

 

<注釈>

この後、外に出された夫妻は兵舎の壁際に立たされます。次の瞬間、弾丸を何十発と浴びせられ、その場で死亡が確認されました。この処刑の様子も後に放映されましたし、Youtubeで検索をかければ該当の動画がアップされています。見たい方は各自検索してみてください。

 

 

 

 

裁判に関する後世の評価

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

↑ 裁判後、テレビカメラの前に現れ新政権樹立を宣言する救国戦線の代表イリエスク氏

 

 

このチャウシェスク夫妻の裁判について、後の人々の評価はどうなっているのでしょうか。いくつか引用します。

 

 

まず、救国戦線評議会の代表で会ったイオン・イリエスクは後年、以下のように述べています。

 

"臨時法廷を設立し、迅速に進行させ、チャウシェスク夫妻を処刑するという流れについて、イオン・イリエスクは2009年に『恥ずべきことではあるが、必要なことだった』と発言した。その一方で『私はチャウシェスクの処刑を悔やんではいない。彼は悪事の主犯格であり、然るべき報いを受けただけだ』とも発言している"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

反政府側の代表であったイリエスクですら、『恥ずべきこと』であったと認識しているようです。

 

 

 

 

ルーマニアから距離を置かれていた同じ社会主義国のソ連の政治家はどのように捉えているのでしょうか。

 

ソ連共産党中央委員会政治局委員の一人であったミハイル・ソロメンツェフはチャウシェスクの処刑について、『私はチャウシェスクに対して拒否反応を覚えたことは無い。彼の処刑については、まったくもって不愉快であり、残酷だ。裁判も捜査も、起訴状も無いではないか。彼らのやったことは、ただ評決を読み上げ、二人を外へ連れていき、撃ち殺した。どこからどう見たって法律違反じゃないのか?』と不快感を露わにしている"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

"2010年にルーマニアを訪問したミハイル・ゴルバチョフ(:当時のソ連のトップ)は、『ルーマニアの状況がどれほど困難なものであったとしても、チャウシェスクを殺すべきではなかった。彼の死は残酷だ』と述べた"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

革命を裏で扇動した疑惑が存在するソ連側も、当時のソ連の指導者はこの裁判には疑問を持っていたようです。

 

 

 

また、当時を知るルーマニア国民は、現在チャウシェスク大統領に対してどのような感情を持っているのでしょうか?

 

"ルーマニア評価戦略研究所は、2010年7月21日から7月23日にかけて、18歳以上のルーマニア人1460人を対象に世論調査を実施し、7月26日に結果を公表した。それによれば、回答者の63%が「1989年以前のほうが生活は良かった」と回答し、23%が「今の生活のほうが良い」と回答した。ニコラエ・チャウシェスクの政治については、49%が「良い指導者だった」と回答し、15%が「悪い指導者だった」と回答し、30%が「良くも悪くもない」と回答した"

出典:ルーマニア革命 (1989年) - Wikipedia

 

といったように、チャウシェスク大統領の時代を懐かしむ声も多いのです。1989年の革命によって社会主義経済の国家から資本主義経済の国家へと180度変換したので、経済の混乱が起き、国民の間の経済格差が拡大してしまった結果、生活が苦しい国民の中にチャウシェスク待望論が出てきたのではないでしょうか。生活に苦しむ国民の視点で考えると『仕事も住まいも、当時は国から提供されていたのに、今では手に入れるのが困難だ』って印象になっているのかもしれませんね。

 

 

 

終わりに…

 

↑チャウシェスク夫妻の墓

 

 

チャウシェスク夫妻を政権の座から引きずり下ろした救国戦線は、90年に選挙を実施し、救国戦線の代表であったイエリスクが大統領に選出されました。まあ、その後救国戦線は内部分裂しちゃったんですけどね(*'ω'*)

 

そもそもイエリスクを始め救国戦線のメンバーの多くが旧共産党系の人物なんですよね。って考えると、ルーマニア革命自体、民衆が独裁者政権を打倒したというより、同じ共産党系内の権力闘争に民衆の反政府運動が乗っかった、って見た方が自然じゃないですかね(*'ω'*)

 

 

 

 

ということで、2025年もお世話になりました。今年の記事の更新はこれで最後です。次回は2026年1月1日、皆さんがお雑煮喰って泥酔している時間帯に更新予定です。

 

ちなみに、この記事は2万字、元日に更新予定の記事も1万5000字を超える無駄に大作になっています。当ブログの記事は、基本的にノートパソコンで書いているんですが、お察しの通り、大作2記事書いてとんでもない肩こりに悩まされています。肩こりが解消されるまで、しばらく記事の更新はお休みしますね(*'ω'*)

 

では、みなさま良いお年をお迎えください(∩´∀`)

 

【スポンサーリンク】