日常にツベルクリン注射を‥

現役の添乗員、そしてなおかつ社会科の教員免許を所持している自分が、旅行ネタおよび旅行中に使える(もしくは使えない)社会科ネタをお届けするブログです♪

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添乗員の視点から知床観光船(遊覧船)の事故を語る記事

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2022年4月23日、北海道・知床半島沖で乗客乗員計26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズ ワン)」が浸水するという事故が起こりました。お亡くなりになられた方に対しては、深いお悔やみを申し上げるとともに、残りの乗客の方の一刻も早い発見をお祈りする次第です。

 

知床半島のクルーズは、団体ツアーでも行程に組み込まれるような人気あるクルーズです。添乗員として長く働いてきた私にとっても他人事とは思えません。今回は、添乗員の視点から今回の事故を振り返っていきたいと思います。

 

<目次>

 

 

 

知床観光船(遊覧船)の特色

 

知床半島をメインとしたクルーズを行っている船会社はいくつかあります。そもそも、これらのクルーズの存在意義は、「道路が開通していない知床半島の自然を海の上から眺める」というコンセプトにあります。海に直接落ちる滝もいくつかありますが、それらは船の上からしか眺めることが出来ないのです。

 

滝以外のメインと言ったら動物、特にヒグマでしょう。陸上でヒグマに出会えば恐怖でしかありませんが、海の上からなら安全にヒグマを目にすることが出来ます。

 

出典:知床遊覧船 世界自然遺産 断崖クルーズ 【公式HP】

 

事故を起こした船会社のHPを見ても、「ヒグマに出会える確率98%」と大きく表示してあるように、ヒグマを見られることに比重を置いたクルーズだと言えます。

 

船会社のHPには、さらに詳しくクルーズの特徴が掲載されていました。

 

知床半島は、プレート運動や火山活動、海食などにより、奇岩や海食崖、火山地形などの様々な景色が見れる日本でも珍しい場所です。 私たちは、知床半島を海からご案内する観光船です。 北海道斜里町ウトロから出発してウトロに帰港いたします。コースは、知床岬コース、ルシャ湾コース、カムイワッカコースの3種類です。

 

行きは、滝や奇岩を間近でご案内いたします。そしてここ知床半島には多様な野生動物が生息する地域でもあります。それらの野生動物も、もちろん探索しながら進んでいきます。ヒグマの親子が戯れていたり、オジロワシが優雅に舞っています。

 

ウミウは、魚を捕るのに海に潜ったり、濡れた羽を岩場で乾かしています。ケイマフリという赤い足の珍しい鳥もいます。 イルカはたまにジャンプしますし、秋には鮭もジャンプします。トドは岩場で休憩していたり、シャチも見れることもあります。もちろんクジラだっています。 陸、海、空の多種多様な生物たちの楽園です。

出典:知床遊覧船 世界自然遺産 断崖クルーズ 【公式HP】

 

とあるように、自然を堪能できる大変魅力あるツアーであると言えます。

 

 

事件の概要

 

写真や紹介文を読むと非常に魅力的で乗船してみたい気になるんですが、そんな知床クルーズの船が事故によって浸水、恐らく沈没してしまいました。

 

 

"23日、北海道の知床半島の沖合で乗員・乗客26人が乗った観光船が行方がわからなくなっている事故(中略)。23日午後、「浸水している」という救助要請のあと、行方が分からなくなった観光船「KAZU 1(19トン)」。運航会社は「知床遊覧船」です。

 

知床斜里町観光協会によりますと、運航会社は、23日、ほかの運航会社に先駆けて今シーズンの運航を始めたばかりでした。運航会社によりますと、観光船は、23日午前10時に斜里町ウトロの港を出港したあと知床岬で折り返し、港に戻る予定でした。

異変があったのは、出港からおよそ3時間後の午後1時ごろ。海上保安庁によりますと、知床半島の沖合から無線や電話で救助要請がありました。「船首が浸水し、沈みかかっている。エンジンが使えない」という内容でした。

さらに午後2時ごろには「船首が30度ほど傾いている」と運航会社に伝えたのを最後に連絡がとれなくなりました。"

出典:知床 観光船事故 何が起きたのか…【経緯】 | NHK | 事故

 

 

 

知床半島の地図を確認してみましょう。

 

出典:コース案内 | 知床遊覧船 世界自然遺産 断崖クルーズ 知床遊覧船

 

クルーズ船の出航地は地図上赤枠のウトロ地区。温泉街なので団体ツアーなら"ホテルをチェックアウトした後、歩いて船乗り場へ行き午前中はクルーズ"みたいなツアーが過去に存在してたことでしょう(私はそのような行程のツアーは経験ないですけど‥)

 

ウトロの午前10時に出発したクルーズ船は、知床半島を北上。3時間コースだったとのことなので、最北端の知床岬まで行き、恐らく折り返し後のカシュ二の滝(黄色枠)付近で浸水したと考えられています。

 

 

 

ちょっと気になるのが、最初の救助要請が出された午後1時くらいの段階でまだカシュ二の滝付近にしか到達していなかったという点です。午前10時出航の3時間コースであれば、本来ならその時間はウトロ港に帰港している時間のはずです。

 

救助要請まで何らかの要因でタイムラグが生じたのか、はたまた何らかの要因でツアーの進行自体が遅れていたのか、そのあたりはよく分かっていません。

 

 

 

出航できるような天候ではなかったはずだが‥

f:id:tuberculin:20220425230218j:image

 

出航した当日の海の状況はかなり悪かったようです。ニュースでも"気象台によりますと、当時、現場周辺の海域の波の高さは3メートルで(出典:知床沖 26人乗った観光船が浸水か 海保が現場周辺を捜索 |NHK 北海道のニュース)と報じられていました。

 

私は添乗員として今まで過去に全国各地の観光船に数多く乗船してきました。その経験を基に考えると、波の高さ3mで出航するなんて正直無謀だったと思っています。

 

具体例を出します。日本三景で知られる宮城県の松島でも遊覧船が運航しています。その船会社のHPを見てみると

 

出典:安全方針|松島島巡り観光船【公式】

 

運航中止の条件として「港内波高1.0m以上、港外予測波高1.5m以上」とあります。松島の大型遊覧船は180トンの400名乗りです。それほど大きな遊覧船でさえこの運航条件なのです。知床遊覧船は19トン65名乗りですから、そのような船で3mの高波の海へ出航することがいかに危険な行為なのかお分かり頂けるかと思います。

 

 

 

 

安全な船会社の見分け方は?

 

日本各地には様々な観光船が存在します。その中には今回の事故を起こした会社のように、まずい運営をしている会社も存在しているのかもしれません。

 

危ない会社であるかどうかの見分け方の1つとして、運営会社のHPに「安全方針」や「運航基準」などが明確に提示されているかどうか、という点が挙げられます。

 

 

繰り返しの引用にはなりますが、宮城県の松島遊覧船のHPを確認してみると「安全方針」が掲載されています。

 

詳しく見ると、運航基準や安全管理規定、さらには避難場所などの掲載がなされています。

 

 

一方で、事故を起こした知床遊覧船のHP内の「安全への取り組み」のページでは

 

 

「事故を起こした時の保険に入ってます」という事と「合同訓練を実施しています」程度しか書かれていません。『お客さんが怪我したり死んだりしても保険入っているから大丈夫だよ!』とでも言いたいのでしょうか?

 

 

また、運航基準(もしくは運航中止基準)については、

 

「波が高いと欠航になります」とだけあります。果たして何m以上であれば欠航になるのか、風は関係無いのか‥色々疑問が浮かんできます。判断基準が非常にあいまいなのです。これでは、船会社の社長のさじ加減1つでいくらでも運航することが出来てしまいます。

 

 

もちろん、安全方針がしっかり掲示してあるから100%安全だとは言い切れませんし、HPに明確な安全方針を掲載していない船会社のすべてが危ない会社だとも言い切れません。もっとも、明確な安全方針を示すことはその会社の安全性をアピールすることに繋がりますから、それをしない船会社はその運営体制を疑ってしかるべきなのかもしれません。

 

 

 

終わりに…

 

今回の船会社のように(船会社に限ったことではありませんが)、事故が起こるべくして起こしたような危ない会社は他にも存在しているのではないかと思うのです。

 

そういった危ない会社は駆逐されるべきではありますが、観光客側が見分けるのは中々難しいと思います。行政の力をもってしてある程度安全体制への指導介入をしていくしか(そして問題あるような会社は、業務停止命令を出していく等)、不安を取り除く方法は無いのかな、と考える次第なのですが‥。

 

 

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