日常にツベルクリン注射を‥

現役の添乗員、そしてなおかつ社会科の教員免許を所持している自分が、旅行ネタおよび旅行中に使える(もしくは使えない)社会科ネタをお届けするブログです♪

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【時には昔の雑誌を‥】1932年(昭和7年)発行『これは失礼集』ほか

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【時には昔の雑誌を‥】シリーズは、筆者である私所有の昔の雑誌を、解説を入れながら読んで行くシリーズ記事です。今回は、1932年(昭和7年)1月に講談社が発行した『新時代婦人心得  知らねば恥大画帖』をご紹介していきます。

 

その中でも今回は、ひたすら失礼な行為を挙げていく『これは失礼集』など、失礼尽くしでお送りしてまいります。

 

前回の記事はこちら

 

www.tuberculin.net

 

 

前回の記事では、1930年代における邸宅を訪問する際の迎える側と客側のマナーを一通りご紹介していました。今回の記事では、食事の際や日常生活において"これは失礼ですよ"って言われるような場面や無礼を、ひたすら挙げていくコーナーになります。

 

戦前の話なので、現代の価値観からすれば堅苦しいことが書かれているかと思いきや、令和の価値観ですら『いや失礼だわ(*'ω'*)』と思っちゃうことばかり挙げられていて、戦前の人たちもそれなりにアウトローだったんだな、と読んだ後に感じるかもしれません。

 

 

<目次>

 

 

 

 

『これは失礼集』

 

ここでは、主にお宅を訪問した際に、やっちゃうと失礼なことを紹介してあります。戦前の価値観では、どのような行為が失礼とみなされていたのでしょうか?

 

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①訪問の時、先様の都合を聞くために目上の人を電話口へ呼び出すのは失礼

‥おそらく給仕(お手伝いさん)を通して聞け、ってことでしょうか。

 

 

ところで、1930年代に固定電話を持っていた人ってどのくらいいるんでしょう?

 

 

昭和9年〜昭和10年、つまり1934年〜1935年の普及率の表なんですが、電話機を見ると1000人あたり18.6台とのことです。

 

今のスマホのように1人1台というわけではなく、1家に1台といった感じでしょうけど、やはり富裕層の持ち物であったのだろうってことは容易に想像出来ます。

 

昭和30年代が舞台の映画『となりのトトロ』でも、サツキが人の家に電話を借りに行くシーンがあるくらいですから、昭和10年代ならなおさら希少価値が高そうです(๑・̑◡・̑๑)

 

 

 

②玄関に立ったままでお客に応対するのは失礼

 

 

③挨拶もろくにしないで相手の頭の先から爪先までジロジロと眺めるのは失礼

 

 

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④お客を長く待たせてゆっくりお化粧したり別の用事をするのは失礼

 

 

⑤あまり遠慮し過ぎて座布団も敷かずお茶も頂かないのはかえって失礼

 

 

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⑥相手の話をうわの空で聞いているのは失礼

 

⑦客の前で女中や子供を叱るのは失礼

 

⑧よほど親しい仲でもない限り、相手のお年をたずねるのは失礼

 

⑨『まあ立派ですこと、おいくらいたしました?』など、つい聞きたがるものですが、着物や持ち物の値段を聞くのは失礼

 

⑩他家を訪問した時、部屋の中をジロジロと見まわすのは失礼。貧しい家はもとよりたとえ立派な部屋でも

 

⑪お土産を風呂敷包みのまま出すのは失礼

‥今だったら紙袋から出して渡す、ってことですね。これは私も大人になるまで知らなかったマナーなので勉強になります。

 

 

 

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⑫言葉もかけずノックもせずに他人の部屋を開けるのは失礼

 

⑬人の集まる席上でコソコソ話をするのは失礼

 

⑭人と話している間にあくびをするのは失礼

 

⑮相手の迷惑も構わず1人で喋り抜くのは失礼

 

 

 

 

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⑯病気見舞いに長座したりクドクドと愚痴を聞かせたりするのは失礼

‥なんで病弱の身でてめえ愚痴を聞かされなきゃいけないんだよ(*'ω'*)ってことですわね。

 

 

 

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⑰お茶の茶碗を伏せて返すのは失礼

 

 

⑱お客の茶碗が主人の茶碗よりあまりに見劣りするのは失礼

 

 

⑲お話をしながらちょいちょいと時計を見るのは失礼

 

 

⑳目上の人や婦人に握手を求めるのは失礼

 

 

 

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㉑手紙の宛名の文字を間違えるのは失礼

 

㉒頂いたお土産を忘れてくるのは失礼

 

このあたりは失礼っていうか論外なんですけど、私はよく持っていくべきお土産を家に忘れてきたりするタイプです(*'ω'*)

 

 

 

 

みっともないから止めましょう集

 

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ここでは、日常的な様々な場面において"やっちゃうとみっともない"行動が紹介されています。

 

 

 

①電車の中でしどけない(だらしながない)居眠り。お隣の人が持て余してしまいます

 

②腰かけた時の股の洋傘。女らしくないポーズではありませんか

 

 

 

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③他人の新聞や雑誌を覗き見する。覗かれる方も嫌なものです

 

 

④人前で足を組む。チラチラ裾が乱れます。

 

 

⑤つり革に下がって知らずに出る二の腕。殊に男子の前では気を付けましょう。

 

 

⑥胸をむき出しにして添乳。いくら母性愛でも電車の中などではね。

‥私の認識だと女性が人前で乳房を晒すことを避けるようになったのは戦後の話、と考えていました。

 

www.tuberculin.net

 

こちらの過去記事でも言及していますが、女性がブラジャーを着用するになったのは昭和30~40年代以降の話です。

 

 

現代では、粉ミルクがあって便利になりましたけど、当時はほぼ母乳育児だったでしょうから、公共の場での授乳に寛容的なのかな、と思っていたのです。そのことは、こちらのサイト(江戸時代の乳をめぐるネットワーク/沢山 美果子(岡山大学) - 医学史と社会の対話)でも考察がされていて

 

"巨大な変化を日本社会におよぼした高度経済成長が始まる頃まで、人前での授乳、そして胸をさらすことは、農村(地方)では、あまり違和感なく、ごく普通になされていたと言えそうです。"

 

と論じられています。自分の想像ですが、1930年代の都市部において"人前での授乳は避けた方が望ましい行為"とする価値観が少しづつ広まっていった(広めようとしていた)のではないでしょうか。現在のブラジャーに相当する「乳バンド」なる商品が発売されたのもこの時期ですし。

 

 

 

 

 

⑦電車の中で外国婦人や美しい娘などを口を開けて見とれる。だらしないのでは?

 

 

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⑧人前でお化粧。せっかくの御令嬢もお里を疑われます。

 

 

⑨電車などでお尻から無理に座り込む。近所の人が眉をしかめます。

 

 

⑩年齢に似合わぬ派手づくり。かえって凄いものとは清少納言も言っています。

 

 

⑪晴れ着に目立つ襦袢(じゅばん:和服用の下着)の襟垢。お見合いなどには必ず落第です。

 

 

⑫汚れた白足袋、汚れたハンカチーフ。盛装しても差し引き0です。

 

 

 

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⑬ショールや手袋のままで食事をする。いくら冬でも困ります。

 

⑭大げさな表情をして話をする。聞いている方も嫌になります。

 

 

大げさな表情って言ってますけど、

 

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いや、なんちゅう顔してんのよ(*'ω'*)

 

 

 

 

 

和食の不作法(こんなことをすれば笑われます)

 

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おもに和食の場面でのマナーについて羅列されてあります。みていきましょう。

 

 

 

①顔を天井に向けて大口開ける吊るし喰い

 

 

②音を立てて食べるジャズ食い

‥現代ではジャズって中高年以降のおじさまおばさまが聴くイメージですけど、当時はダンスミュージック的な扱いをされていて、若者が集うダンスホールで重宝されていました。ってことは"ジャズ食い"という言葉からに滲み出ているように、当時の中高年世代からはあまりよく思われていなかったみたいですね‥。

 

 

③口いっぱいあんぐりと頬張り食い

 

 

④自分の膳と他人の膳をちょろちょろ見比べるネズミ食い

 

 

⑤顔を前へ突き出して犬喰い

 

 

⑥仰向いて吸い物を流し込む流し喰い

 

 

⑦お椀を下に置いたままお吸い物の身をつまみ出す不精食い

 

 

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⑧体をそのまま横に出す袖越しのお給仕

 

 

⑨片手で使う小楊枝とチュウチュウ歯で音を立てる不作法

 

 

⑩心づくしのごちそうがたくさんあるのにお香の物を先に食べる

 

 

⑪片手をぬッと差し出すお膳越しのお給仕

 

 

⑫お上りのお茶でゴロゴロと口の中をお掃除する

 

 

⑬せっかくのごちそうを食べずにご飯とお汁だけ食べる

 

 

⑭隣室から手を伸ばす敷居越しのお給仕

 

 

 

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⑮食事中ちょいちょいよそ見をする

 

 

⑯ご飯の上へお茶を載せて食べる

 

 

⑰噛みながら話をする

 

 

⑱箸で歯をほじくる

 

 

イラストからもうかがえますが、まあかなりアウトローというかフリーダムというか‥(^v^)

 

 

 

 

洋食の不作法

 

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①テーブルから離れて腰をかけ足を向かう側へ伸ばしたり、椅子によりかかったりすること。

 

 

②ナプキンを胸高にかけたり、料理も出ない前にパンを食べること

 

 

③バターをフォークで取ること

 

 

④ナイフで料理を突き刺して食べること

 

 

⑤テーブルに肘をついたり、パンを丸ごと持って食べること

 

 

⑥調味料をむやみに使ったり、他の人にすすめること

 

 

⑦食べ終わった骨や皮などを皿中に散らしたり、口の中に指を手を入れたり吐き出したりすること

 

 

⑧フィンガーボールの水を飲むこと

‥フィンガーボールとは指を洗う器の事です。消臭のために中にレモンが入っていたりするので、まあ間違えて飲んじゃうかもしれません。

 

なお、私は元教員なのですが、フィンガーボールはよく学校教育における道徳の教材として用いられます。

"荒木貞夫が陸軍大将だった頃に主宰した帝国ホテルでの宴会の席上、客の一人がフィンガーボウルの使用法を知らず、中の水を飲んでしまった。すると荒木は、咄嗟に自分もフィンガーボウルの水を飲み、主宰者として「客に恥をかかせまい」と配慮したという逸話が残っている"

出典:フィンガーボウル - Wikipedia

 

 

 

 

⑨コーヒーが出る前にタバコを吸うこと

 

 

⑩遠くの人に呼び掛けたり、『この料理は好きません』などと言うこと

 

 

⑪給仕に飲み物を命じたり、大声で給仕を呼ぶこと

 

 

 

 

男子との交際にはこのおきて

 

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ここでは、男子とお付き合いする時の注意点が具体的に紹介されています。これらの注意点は、戦前の価値観で書かれたものですが、現代でも十分通用するものになっています。

 

 

 

①男子1人の席へは座らぬこと。どうしても座らねばならぬ時には障子や窓を開けておくこと

 

 

②理由の無い贈答はしないこと。特に赤い花などは禁物です。

 

 

③確実な同伴者なしには男子を訪問しないこと。特に下宿などへは絶対にいけません。

 

 

④談話は全て明瞭に。密談や馴れ馴れしい言葉は避けること

 

 

 

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⑤男子の前では袂をくわえたり髪へ手をやったり二の腕を出したり、表情たっぷりの魅力の乱発は慎まなければなりません。

 

 

⑥髪の香りが分かるほど頭と頭をつけて雑誌や新聞を読むような不謹慎はしないこと

 

 

⑦男子から冗談を言われても「アラいやだ」などと肩を打ったり打つ真似をしないこと

 

 

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イラストにセリフの吹き出しはありませんけども、無くたって『あらヤダ~』って聞こえてくるもん。イラストの雰囲気が秀逸。

 

 

 

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⑧寝室には男子を案内してはいけません。こちらから入ってもいけません。弁解の出来ぬ非難を受けることがあります。

 

 

⑨遊戯などに夢中になって言葉や態度を乱さぬこと。はしたない女と蔑まれます。

 

 

⑩男子にタバコのマッチをつけたり、果物の皮を剥いてやったり度を超えた親切は控えること。

 

 

⑪旅行先などの交際にはみだりに親密にしないこと。またわずかな交際で信頼し過ぎるのは間違いのもとです。

 

 

⑫手紙はなるべく葉書にする事。奥さんのある人には奥さんと連名にすること。赤インキ、赤封筒、赤用紙などは用いぬこと。

‥とにかく赤い物=好意の象徴、って思われてるみたいです。現代で言うLINEの文章のハートマークみたいなものでしょうか

 

 

 

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⑬写真はみだりに所望したり贈答したりしないこと

‥現代では婚活アプリなどがありますが、そこでも写真を欲しがりまくっていたらちょっと敬遠されちゃいますもんね。

 

 

 

⑭交際範囲は家族に知らせておくことがお互いに安心です

 

 

 

 

終わりに…

中には時代錯誤のマナーもありましたけども、大部分は現代でも通用するマナーなんですよね。100年くらいじゃ礼儀とかマナーって変わらないってことですね。

 

そして、こういったマナー本が当時(1930年代)に存在していたということは、いつの時代にもマナーや礼儀があやふやな人間は一定数いる、ってことなんですよね。

 

『最近の若者は礼儀がなってない』って嘆く必要はなくて、分からないなら教えてあげればいい、って姿勢の方が健全な気がしています(๑・̑◡・̑๑)

 

 

 

 

 

 

 

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